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万葉集読解・・・151(2331~2350番歌)

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     万葉集読解・・・151(2331~2350番歌)
 2312番歌から続く冬雑歌の続き(2332番歌まで)。
 頭注に「黄葉を詠む」とある。
2331  八田の野の浅茅色づく有乳山嶺の淡雪寒く散るらし
      (八田乃野之 淺茅色付 有乳山 峯之沫雪 <寒>零良之)
 「八田(やた)の野」は奈良県大和郡山市矢田の野。有乳山(あらちやま)は福井県敦賀市旧愛発村(あらちむら)の山のことという説がある。大和郡山市矢田と福井県敦賀市ではあまりに遠い。地図を広げてごらんになればお分かりのように三日や四日で行ける場所ではない。「やた」、「あらち」という読みから導き出した説かと思料される。が、歌には何の断り書きもなく、裸で「八田の野」、「有乳山」とあるので、馴染みの野と山に相違ない。両所とも不詳としておくのが無難。浅茅(あさぢ)は丈の低い茅(かや)のこと。
 「八田の野の浅茅が色づいてきた。このぶんだと有乳山の嶺では淡雪が寒々と舞っていることだろうな」という歌である。

 頭注に「月を詠む」とある。
2332  さ夜更けば出で来む月を高山の嶺の白雲隠すらむかも
      (左夜深者 出来牟月乎 高山之 峯白雲 将隠鴨)
 読解不要の平明歌。
 「夜が更けて上って来るだろう月も高山の峰にかかっているあの白雲に隠れて見えないだろうな」という歌である。
 以上で「冬雑歌」の終了。

 頭注に「冬相聞歌」とある。2333~2350番歌の18首。
2333  降る雪の空に消ぬべく恋ふれども逢ふよしなしに月ぞ経にける
      (零雪 虚空可消 雖戀 相依無 月經在)
 「空に消(け)ぬべく」はこころもとない恋心の比喩。「消え入るように」という、「逢ふよし」は「逢う理由も術も」という意味である。
 「降る雪もやがて空に消えてゆく、そんな雪のように消え入りそうになりながら恋い焦がれているが、逢う術もないまま月日が経ってしまった」という歌である。

2334  沫雪は千重に降りしけ恋ひしくの日長き我れは見つつ偲はむ
      (阿和雪 千重零敷 戀為来 食永我 見偲)
 淡雪に呼びかけた歌。「千重(ちへ)に」は「幾重にも」という意味。「日(け)長き我れは」でいったん切って読むのがいい。
 「淡雪よ、幾重にも降りかかっておくれ。恋い焦がれるようになってからもう長くなる私なのです。お前が降りかかるのを見ながら心を安らげよう」という歌である。
 左注に「右は柿本朝臣人麻呂歌集に登載されている」とある。

 頭注に「露に寄せて」とある。
2335  咲き出照る梅の下枝に置く露の消ぬべく妹に恋ふるこのころ
      (咲出照 梅之下枝尓 置露之 可消於妹 戀頃者)
 「咲き出照る」は「咲き出して照り輝く」という意味。「消ぬべく」は「消え入るように」という意味。
 「咲き出して照り輝く梅の下枝(しづえ)に降った露が消え入るように、切なく彼女に恋い焦がれているきょうこのごろ」という歌である。

 頭注に「霜に寄せて」とある。
2336  はなはだも夜更けてな行き道の辺の斎小竹の上に霜の降る夜を
      (甚毛 夜深勿行 道邊之 湯小竹之於尓 霜降夜焉)
 「はなはだも」は「こんなにも」という意味。「な行き」は「な~そ」の禁止形。「斎小竹(ゆささ)」は「神聖な笹葉」という意味。
 「こんなにも夜が更けているのですから、お帰りなさるな。路傍の神聖な笹葉に霜が降りてくるこんな夜更けに」という歌である。

 頭注に「雪に寄せて」とある。
2337  笹の葉にはだれ降り覆ひ消なばかも忘れむと言へばまして思ほゆ
      (小竹葉尓 薄太礼零覆 消名羽鴨 将忘云者 益所念)
 「はだれ降り」は「うっすら振って」という意味。第四句に「忘れむと言へば」とあるので、ここまでは作者の相手の言葉。
 「笹の葉にうっすらと降り注いだ雪が消えるように、私も消えられたらあなたのことを忘れられるのに、と彼女に言われると、ますます彼女がいとしくなる」という歌である。

2338  霰降りいたく風吹き寒き夜や旗野に今夜我が独り寝む
      (霰落 板敢風吹 寒夜也 旗野尓今夜 吾獨寐牟)
 「旗野」は地名だが、どこのことか不明。
 「あられが降ってひどく風が吹く寒々とした今宵、はた野で私は独りで寝なければならないのか」という歌である。

2339  吉隠の野木に降り覆ふ白雪のいちしろくしも恋ひむ我れかも
      (吉名張乃 野木尓零覆 白雪乃 市白霜 将戀吾鴨)
 吉隠(よなばり)は奈良県桜井市の国道165号線沿いにある地名。「いちしろくしも」は「はっきりと」という意味。結句の「恋ひむ我れかも」が少々悩ましい。詠嘆と反語の二様にとれるからである。相手のことを思っているという意味で、反語ととっておきたい。
 「吉隠(よなばり)の野に立つ木々に降り積もった真っ白な雪、その白雪のように恋心をはっきりと表に出す私でしょうか」という歌である。

2340  一目見し人に恋ふらく天霧らし降りくる雪の消ぬべく思ほゆ
      (一眼見之 人尓戀良久 天霧之 零来雪之 可消所念)
 「恋ふらく」は「恋するのは」という意味。「消ぬべく」は「消え入るように」という意味。
 「一目見ただけの人に恋するのは、一面霧がかかったように降ってくる雪のように消え入りそうで切ない」という歌である。

2341  思ひ出づる時はすべなみ豊国の由布山雪の消ぬべく思ほゆ
      (思出 時者為便無 豊國之 木綿山雪之 可消<所>念)
 「豊国の由布山」は大分県の山。「消ぬべく」は前歌参照。
 「彼女のことを思い始めるとどうしようもなく、由布山の雪のように消え入りそうで切ない」という歌である。

2342  夢のごと君を相見て天霧らし降りくる雪の消ぬべく思ほゆ
      (如夢 君乎相見而 天霧之 落来雪之 可消所念)
 前々歌及び前歌同様、結句が「消ぬべく思ほゆ」となっている。平明歌。」
 「夢の中の出来事のようにあの方をお見かけしただけで、一面霧がかかったように空から降ってくる雪のように消え入りそうで切ない」という歌である。

2343  我が背子が言うるはしみ出でて行かば裳引きしるけむ雪な降りそね
      (吾背子之 言愛美 出去者 裳引将知 雪勿零)
 「うるはしみ」は「~なので」の「み」。「言(こと)うるはしみ」は「言葉が素敵なので」という意味。「な降りそね」は「な~そ」の禁止形。
 「あの人の言い方が素敵なので、戸口から追って出ていきたいが、そうすると引きずる裳の跡がはっきりついてしまいます。だから雪さんよ。降らないでね」という歌である。

2344  梅の花それとも見えず降る雪のいちしろけむな間使遣らば [一云 降る雪に間使遣らばそれと知らなむ]
      (梅花 其跡毛不所見 零雪之 市白兼名 間使遣者 [一云 零雪尓 間使遣者 其将知<奈>])
 「それとも見えず」は「見分けがつかないほど」という、「いちしろけむな」は「はっきりと」という意味である。
 「白梅と見分けがつかないほど降る真っ白な雪のように、これみよがしに使いを出せば二人の仲がはっきり知れてしまうだろうな」という歌である。
 異伝歌は「はっきりと知れてしまう」が「それと知られてしまう」となっている。

2345  天霧らひ降りくる雪の消えるとも君に逢はむとながらへわたる
      (天霧相 零来雪之 消友 於君合常 流經度)
 結句の「ながらへわたる」は「生きながらえる」という意味だが、「雪が流れる」を意識した洒落た表現。
 「一面霧がかかったように降ってくる雪のように消え入りそうに(死にたく)なりますが、あなた様にお逢いするまではと生きながらえております」という歌である。

2346  うかねらふ跡見山雪のいちしろく恋ひば妹が名人知らむかも
      (窺良布 跡見山雪之 灼然 戀者妹名 人将知可聞)
 「うかねらふ」は本歌以外に例が無く、枕詞(?)。跡見(とみ)は1549番旋頭歌に「射目立てて跡見の岡辺のなでしこの~」がある。その頭注に「典鑄正(てんちうのかみ)紀朝臣鹿人(きのかひと)らが跡見に到着したとき作った歌」とある。跡見は地名と見られ、奈良県桜井市内の地名というが、不詳。
 「跡見山の雪のようにはっきりと彼女への恋を態度に示したら、彼女の名が人に知られることになるかも」という歌である。

2347  海人小舟泊瀬の山に降る雪の日長く恋ひし君が音ぞする
      (海小船 泊瀬乃山尓 落雪之 消長戀師 君之音曽為流)
 「海人小舟」は3例あるが、枕詞的使用は本歌のみ。他の2例(1182番歌及び4360番長歌)はそのまま普通名詞として使われている。つまり枕詞(?)。「泊瀬(はせ)の山」は奈良県桜井市内にある山。「日(け)長く」は「幾日も」という意味。
 「幾日も降り続く泊瀬の山の雪のように長らく恋い焦がれていたわが君が(とうとう)やってくる音がする」という歌である。

2348  和射見の嶺行き過ぎて降る雪のいとひもなしと申せその子に
      (和射美能 嶺徃過而 零雪乃 猒毛無跡 白其兒尓)
 「和射見(わざみ)の嶺」は岐阜県関ヶ原付近のことという。「いとひもなしと」は「厭なものはないと」という意味である。
 「和射見の嶺を過ぎて降る雪は厭なものだとその子に告げてほしい」という歌である。

 頭注に「花に寄せて」とある。
2349  我が宿に咲きたる梅を月夜よみ宵々見せむ君をこそ待て
      (吾屋戸尓 開有梅乎 月夜好美 夕々令見 君乎祚待也)
 「我が宿に」は「我が家の庭に」という意味。「月夜よみ」は「~ので」の「み」。「素晴らしい月夜なので」という意味である。
 「素晴らしい月夜なので美しく咲いている梅の花を毎晩お見せしたいとお待ちしているのにいらっしゃいませんね」という歌である。

 頭注に「夜に寄せて」とある。
2350  あしひきの山のあらしは吹かねども君なき宵はかねて寒しも
      (足桧木乃 山下風波 雖不吹 君無夕者 豫寒毛)
 「あしひきの」はお馴染みの枕詞。「かねて寒しも」はやや悩ましい表現。「あらかじめ寒い」と口語訳するのはどこか妙である。「嵐が吹いてでもいるように」とするのがよいであろう。
 「山おろしの風が吹いてるわけじゃありませんが、あなた様がいらっしゃらない今宵は嵐が吹いてでもいるように寒々します」という歌である。

 以上で、巻10は完了である。
           (2015年3月29日記、2018年10月17日)
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