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そ の 196 へ
万葉集読解・・・195(3211~3220番歌)
3211 玉の緒の現し心や八十楫懸け漕ぎ出む船に後れて居らむ
(玉緒乃 <徙>心哉 八十梶懸 水手出牟船尓 後而将居)
3211~3220番歌は問答歌。
「玉の緒(を)の」は長い紐の緒の意味だが、19例もある。「長き」「絶えて」、「くくり寄せつつ」等、玉の緒に由来する歌が多い。「現(うつ)し心や」と続く例はなく、枕詞(?)とせざるを得ない。さりとて本歌は枕詞として使われている。「現(うつ)し心や」は「平然と」という意味である。「八十楫(やそか)懸け」は「たくさんの梶を並べ」である。「(別れがつらいのに)平然とたくさんの梶を並べ漕ぎ出さんとする船を、やむなく呆然と取り残される(見送る)私です」という歌である。
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万葉集読解・・・195(3211~3220番歌)
3211 玉の緒の現し心や八十楫懸け漕ぎ出む船に後れて居らむ
(玉緒乃 <徙>心哉 八十梶懸 水手出牟船尓 後而将居)
3211~3220番歌は問答歌。
「玉の緒(を)の」は長い紐の緒の意味だが、19例もある。「長き」「絶えて」、「くくり寄せつつ」等、玉の緒に由来する歌が多い。「現(うつ)し心や」と続く例はなく、枕詞(?)とせざるを得ない。さりとて本歌は枕詞として使われている。「現(うつ)し心や」は「平然と」という意味である。「八十楫(やそか)懸け」は「たくさんの梶を並べ」である。「(別れがつらいのに)平然とたくさんの梶を並べ漕ぎ出さんとする船を、やむなく呆然と取り残される(見送る)私です」という歌である。
3212 八十楫懸け島隠りなば我妹子が留まれと振らむ袖見えじかも
(八十梶懸 嶋隠去者 吾妹兒之 留登将振 袖不所見可聞)
「八十楫懸け」は前歌を受け、「たくさんの梶を並べ漕ぎ出したが」という意味である。平明歌。「たくさんの梶を並べ漕ぎ出したが、この船が島に隠れてしまったら、私の彼女が、とまれとまれと振っている袖も見えなくなってしまうだろう」という歌である。
右二首問答歌。
(八十梶懸 嶋隠去者 吾妹兒之 留登将振 袖不所見可聞)
「八十楫懸け」は前歌を受け、「たくさんの梶を並べ漕ぎ出したが」という意味である。平明歌。「たくさんの梶を並べ漕ぎ出したが、この船が島に隠れてしまったら、私の彼女が、とまれとまれと振っている袖も見えなくなってしまうだろう」という歌である。
右二首問答歌。
3213 神無月しぐれの雨に濡れつつか君が行くらむ宿か借るらむ
(十月 鍾礼乃雨丹 沾乍哉 君之行疑 宿可借疑)
神無月は旧暦の十月(現在の11月頃)。「濡れつつか」は「濡れておいでになるだろうか」である。「いま、旧暦の十月、冷たいしぐれの雨に旅行くあの方は濡れておいでだろうか。あるいはどこかで宿を借りておいでだろうか」という歌である。
(十月 鍾礼乃雨丹 沾乍哉 君之行疑 宿可借疑)
神無月は旧暦の十月(現在の11月頃)。「濡れつつか」は「濡れておいでになるだろうか」である。「いま、旧暦の十月、冷たいしぐれの雨に旅行くあの方は濡れておいでだろうか。あるいはどこかで宿を借りておいでだろうか」という歌である。
3214 神無月雨間も置かず降りにせばいづれの里の宿か借らまし
(十月 雨間毛不置 零尓西者 誰里<之> 宿可借益)
「神無月」前歌参照。「雨間(あまま)も置かず」は「止むこともなく」、「降りにせば」は「降り続けば」という意味である。「このしぐれが止むこともなく降り続けば、どこの里で宿を借りたらいいのだろう」という歌である。
右二首問答歌。
(十月 雨間毛不置 零尓西者 誰里<之> 宿可借益)
「神無月」前歌参照。「雨間(あまま)も置かず」は「止むこともなく」、「降りにせば」は「降り続けば」という意味である。「このしぐれが止むこともなく降り続けば、どこの里で宿を借りたらいいのだろう」という歌である。
右二首問答歌。
3215 白栲の袖の別れを難みして荒津の浜に宿りするかも
(白妙乃 袖之別乎 難見為而 荒津之濱 屋取為鴨)
「白栲の」は「真っ白な」ないし袖の美称。「難(かた)みして」は「し難く」という意味。荒津は福岡市中央区荒津の浜。「ここであの子と袖の別れをし難くて、荒津の浜で宿を取ることにした」という歌である。
(白妙乃 袖之別乎 難見為而 荒津之濱 屋取為鴨)
「白栲の」は「真っ白な」ないし袖の美称。「難(かた)みして」は「し難く」という意味。荒津は福岡市中央区荒津の浜。「ここであの子と袖の別れをし難くて、荒津の浜で宿を取ることにした」という歌である。
3216 草枕旅行く君を荒津まで送りぞ来ぬる飽き足らねこそ
(草枕 羈行君乎 荒津左右 送来 飽不足社)
草枕はおなじみの枕詞。「飽き足らねこそ」は「心残り」すなわち「別れがたくて」という意味である。「遠く旅立つあなたをとうとう荒津まで見送りにやってきました。なかなか別れがたくて」という歌である。
右二首問答歌。
(草枕 羈行君乎 荒津左右 送来 飽不足社)
草枕はおなじみの枕詞。「飽き足らねこそ」は「心残り」すなわち「別れがたくて」という意味である。「遠く旅立つあなたをとうとう荒津まで見送りにやってきました。なかなか別れがたくて」という歌である。
右二首問答歌。
3217 荒津の海我れ幣奉り斎ひてむ早帰りませ面変りせず
(荒津海 吾幣奉 将齊 早<還>座 面變不為)
荒津の海は福岡市中央区荒津の海。「幣(ぬさ)奉(まつ)り斎(いは)ひてむ」だが、幣は神様へのお供え物、奉りは「お供えして」、斎ひてむは「身を清めてお祈りする」で、全体として「海の神様にお供え物をし、身を清めてお祈りしましょう」という意味である。「面変りせず」は「やつれることなく」という意味。
「荒津の海、私は神様にお供え物をし、身を清めてお祈りしましょう。早くお帰り下さい。やつれることなくお元気な姿で」という歌である。
状況がよく分からない歌だが、次歌との関連からこの歌の作者(女性)はどうやら筑紫の人らしい。夫は大和の都にでも行くのだろうか。
(荒津海 吾幣奉 将齊 早<還>座 面變不為)
荒津の海は福岡市中央区荒津の海。「幣(ぬさ)奉(まつ)り斎(いは)ひてむ」だが、幣は神様へのお供え物、奉りは「お供えして」、斎ひてむは「身を清めてお祈りする」で、全体として「海の神様にお供え物をし、身を清めてお祈りしましょう」という意味である。「面変りせず」は「やつれることなく」という意味。
「荒津の海、私は神様にお供え物をし、身を清めてお祈りしましょう。早くお帰り下さい。やつれることなくお元気な姿で」という歌である。
状況がよく分からない歌だが、次歌との関連からこの歌の作者(女性)はどうやら筑紫の人らしい。夫は大和の都にでも行くのだろうか。
3218 朝な朝な筑紫の方を出で見つつ音のみぞ我が泣くいたもすべなみ
(旦々 筑紫乃方乎 出見乍 哭耳吾泣 痛毛為便無三)
「筑紫の方を出で見つつ」とあるから作者は筑紫を離れている。が、その前の句に「朝な朝な」とあるから筑紫を旅立って相当離れている。旅の途上。「音(ね)のみぞ我が泣く」は「声をあげて泣く」、「いたもすべなみ」は「どうしようもなく」である。「毎朝、毎朝、筑紫の方向を立って出て見ながら、私は声をあげて泣くばかり。もうどうしようもなくて」という歌である。
右二首問答歌。
(旦々 筑紫乃方乎 出見乍 哭耳吾泣 痛毛為便無三)
「筑紫の方を出で見つつ」とあるから作者は筑紫を離れている。が、その前の句に「朝な朝な」とあるから筑紫を旅立って相当離れている。旅の途上。「音(ね)のみぞ我が泣く」は「声をあげて泣く」、「いたもすべなみ」は「どうしようもなく」である。「毎朝、毎朝、筑紫の方向を立って出て見ながら、私は声をあげて泣くばかり。もうどうしようもなくて」という歌である。
右二首問答歌。
3219 豊国の企救の長浜行き暮らし日の暮れゆけば妹をしぞ思ふ
(豊國乃 聞之長濱 去晩 日之昏去者 妹食序念)
豊国の企救(きく)の長浜は福岡県小倉市の浜。「行き暮らし」は「歩いて暮らす」すなわち「一日中歩いている内に」という意味である。「豊国の企救(きく)の長浜に行って一日中歩いている内に日が暮れてきてあの子のことをしきりに思う」という歌である。
(豊國乃 聞之長濱 去晩 日之昏去者 妹食序念)
豊国の企救(きく)の長浜は福岡県小倉市の浜。「行き暮らし」は「歩いて暮らす」すなわち「一日中歩いている内に」という意味である。「豊国の企救(きく)の長浜に行って一日中歩いている内に日が暮れてきてあの子のことをしきりに思う」という歌である。
3220 豊国の企救の高浜高々に君待つ夜らはさ夜更けにけり
(豊國能 聞乃高濱 高々二 君待夜等者 左夜深来)
「豊国の企救(きく)の高浜」は前歌を受け、高々を導く序歌。「高々に」はむろん「首を長くして」という意味である。「君待つ夜らは」のらは接尾語で調子をととのえる「ら」。「さ夜更けにけり」のさは強調の「さ」。「(あなたのいる)豊国の企救の高浜のように高々と首を長くしてあなたを待っている夜。その夜ももう更けてしまいました」という意味である。
右二首問答歌。
(豊國能 聞乃高濱 高々二 君待夜等者 左夜深来)
「豊国の企救(きく)の高浜」は前歌を受け、高々を導く序歌。「高々に」はむろん「首を長くして」という意味である。「君待つ夜らは」のらは接尾語で調子をととのえる「ら」。「さ夜更けにけり」のさは強調の「さ」。「(あなたのいる)豊国の企救の高浜のように高々と首を長くしてあなたを待っている夜。その夜ももう更けてしまいました」という意味である。
右二首問答歌。
以上で万葉集巻12は完了である。少し余白があるが、切りがいいので今回はここまでとしておきたい。
(2016年1月12日記)
(2016年1月12日記)
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