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万葉集読解・・・170(2709~2728番歌)

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     万葉集読解・・・170(2709~2728番歌)
2709  我妹子に我が恋ふらくは水ならばしがらみ越して行くべく思ほゆ [或本    歌發句云 相思はぬ人を思はく]
      (吾妹子 吾戀樂者 水有者 之賀良三<超>而 應逝衣思 [或本    歌發句云 相不思 人乎念久])
 「しがらみ」は、水流を塞き止める柵。通常杭を並べ竹や木を渡す。
 「彼女に恋い焦がれるのは、水流にたとえればしがらみさえ乗り越えて行くような気持ちである」という歌である。
 或る本には発句は以下のようになっているとしている。
 「相思はぬ人を思はく」(相不思 人乎念久)。「思ってもくれない人を思うのは水流にたとえれば~」となっている。

2710  犬上の鳥籠の山なる不知哉川不知とを聞こせ我が名告らすな
      (狗上之 鳥籠山尓有 不知也河 不知二五寸許瀬 余名告奈)
 犬上の鳥籠(とこ)の山とは、滋賀県彦根市にある正法寺山。不知哉川(いさやがは)はそこを流れる川。その不知(いさ)を次句の不知(いさ)にかけている。「とを」は九九の2掛ける5(原文二五)のこと。「我が名告(の)らすな」は「私の名は伏せておいて下さい」という意味で、実質的にはこの結句のみの歌。
 「犬上の鳥籠(とこ)の山なる不知哉川(いさやがは)といいますが、問われても不知とおっしゃって下さい。私の名は伏せておいて下さいね」という歌である。

2711  奥山の木の葉隠りて行く水の音聞きしより常忘らえず
      (奥山之 木葉隠而 行水乃 音聞従 常不所忘)
 読解不要の平明歌。
 「奥山の木の葉隠りに流れ下る音、その音のように噂だけを聞きました。以来、その噂が常に頭にあって忘れられません」という歌である。

2712  言急くは中は淀ませ水無川絶ゆといふことをありこすなゆめ
      (言急者 中波余騰益 水無河 絶跡云事乎 有超名湯目)
 「言急(ことと)くは」は「噂が激しいようでしたら」という意味。「中は淀ませ」は「途中でお休みになって」という意味である。「ありこすなゆめ」は「~にならないように決して」という意味である。
 「噂が激しいようでしたら途中でお休みになって下さい。が、水無川のように途絶えてしまわないように、決して」という歌である。

2713  明日香川行く瀬を早み早けむと待つらむ妹をこの日暮らしつ
      (明日香河 逝湍乎早見 将速登 待良武妹乎 此日晩津)
 明日香川は現在飛鳥川と表記されている。奈良県明日香村、橿原市、田原本町などを流れる川。「行く瀬を早み」は「~なので」の「み」。「早けむと」を導く序歌。ここでは「早く早く」と次句につなげて読むといい。
 「明日香川、その瀬は早く、早く早くと待っているに相違ない彼女だろうに、行けずにこの日を暮らしてしまった」という歌である。

2714  もののふの八十宇治川の早き瀬に立ちえぬ恋も我れはするかも [一    云 立ちても君は忘れかねつも]
      (物部乃 八十氏川之 急瀬 立不得戀毛 吾為鴨 [一云 立而    毛君者 忘金津藻])
 「もののふの八十氏」を「宇治川」にかけている。宇治川は京都府宇治市を流れる川。「立ちえぬ」は「立っていられない」という意味。
 「氏の多いもののふですが、その宇治川の早い瀬には立っていられない。が、それでも私は恋いしています」という歌である。
 異伝歌は「その急流に立つことになっても、あなたは忘れられません」という歌である。

2715  神なびの打廻の崎の岩淵の隠りてのみや我が恋ひ居らむ
      (神名火 打廻前乃 石淵 隠而耳八 吾戀居)
 「神なび」は神社を指す。「打廻(うちみ)の崎」は所在不詳。
 「神社の打廻(うちみ)の崎にある岩だらけの淵はひっそりと隠れている。その淵のように私は恋い焦がれるばかりであろうか」という歌である。

2716  高山ゆ出で来る水の岩に触れ砕けてぞ思ふ妹に逢はぬ夜は
      (自高山 出来水 石觸 破衣念 妹不相夕者)
 「高山ゆ」は「~から」の「ゆ」で「高い山から」という意味である。
 「高い山からほとばしり出てくる水が岩に触れて砕け散る。そんな風に砕け散る我が思い。彼女に逢えない夜は」という歌である。

2717  朝東風に井堤越す波の外目にも逢はぬものゆゑ瀧もとどろに
      (朝東風尓 井堤超浪之 世染似裳 不相鬼故 瀧毛響動二)
 「朝東風に」は「あさこちに」と読む。この、こち(東風)は菅原道真の「東風吹かば匂いおこせよ梅の花主無しとて春を忘るな」という有名な歌がある。
 「井堤(ゐで)越す波の」は「堤を越えて波が」という意味で、次句の「外目(よそめ)にも」にかかる。「逢はぬものゆゑ」は「逢ってもいないのに」という意味。
 「朝の東風に吹かれて堤を越えて波があふれ出すように、あの子に遠くから逢ってもいないのに、噂ばかりが滝もとどろにやかましい」という歌である。

2718  高山の岩もとたぎち行く水の音には立てじ恋ひて死ぬとも
      (高山之 石本瀧千 逝水之 音尓者不立 戀而雖死)
 「岩もとたぎち」は「岩の根本をほとばしり」という意味。
 「高い山の岩の根本をほとばしって流れ下る音、そんな水音のように噂を立てられないようにしていよう。たとえ恋い焦がれて死のうとも」という歌である。

2719  隠り沼の下に恋ふれば飽き足らず人に語りつ忌むべきものを
      (隠沼乃 下尓戀者 飽不足 人尓語都 可忌物乎)
 「隠(こも)り沼の下に」は「隠れた沼のように心密かに」という意味である。「人に語りつ」は「人に話してしまった」という意味。「忌(い)むべきものを」は「慎まなければならないのに」という意味。
 「隠れた沼のように心密かに恋していたが、それでは飽きたらず、とうとう人に話してしまった、慎まなければならないのに」という歌である。

2720  水鳥の鴨の棲む池の下樋無みいぶせき君を今日見つるかも
      (水鳥乃 鴨之住池之 下樋無 欝悒君 今日見鶴鴨)
 「下樋(したび)無み」は(~ので)の「み」。下樋は土中に埋められた水を通す管。「下樋が無いので水が淀んで」という意味である。「いぶせき」は「心が晴れない」という意味。
 「水鳥の鴨が棲んでいる池に下樋(したび)が無いように滞って心が晴れませんでしたが、そのあなた様に今日やっとお逢いできましたわ」という歌である。

2721  玉藻刈る井堤のしがらみ薄みかも恋の淀める我が心かも
      (玉藻苅 井堤乃四賀良美 薄可毛 戀乃余杼女留 吾情可聞)
 「しがらみ」は、水流を塞き止める柵。通常杭を並べ竹や木を渡す。この歌、歌意がいまいち不明。というのは「しがらみが薄ければ」、恋は淀まずすらすら運ぶからである。各書はそう解しているが、第三句の「薄みかも」は願望に取れないだろうか。
 「玉藻を刈る堤のしがらみはもっと薄くなってくれないだろうか。恋が滞っている我が心なので」という歌である。

2722  我妹子が笠のかりての和射見野に我れは入りぬと妹に告げこそ
      (吾妹子之 笠乃借手乃 和射見野尓 吾者入跡 妹尓告乞)
 「笠のかりて」は和傘の内側の輪の部分。「和射見野(わさみの)」は岐阜県関ヶ原という。「かりての輪」は「わさみ」の「わ」を導く序歌。
 「彼女がさしているかりての輪、その和射見野(わさみの)にやっとさしかかった。誰かこのことを彼女に告げてくれないだろうか」という歌である。

2723  あまたあらぬ名をしも惜しみ埋れ木の下ゆぞ恋ふるゆくへ知らずて
      (數多不有 名乎霜惜三 埋木之 下従其戀 去方不知而)
 「あまたあらぬ」はよく分からない表現。直訳すれば「数多くもない」ということだが、それでは歌意が通りにくい。「数あるわけではないたった一つの名」と解しておく。「埋れ木の下ゆぞ」は「埋もれた木のように密かに」という意味である。
 「数あるわけではないたった一つの名を惜しんで、埋もれた木のように密かに恋している。その恋の行方はどうなるか分からないまま」という歌である。

2724  秋風の千江の浦廻の木屑なす心は寄りぬ後は知らねど
      (冷風之 千江之浦廻乃 木積成 心者依 後者雖不知)
 千江(ちえ)は地名とみられるが、所在不詳。
 「秋風が吹く千江の浦辺の木屑のように、心はあなたの方に寄せられました。後はどうなるか分かりませんが」という歌である。

2725  白真砂御津の埴生の色に出でて言はなくのみぞ我が恋ふらくは
      (白細砂 三津之黄土 色出而 不云耳衣 我戀樂者)
 「白真砂(しらまなご)」は真っ白な砂浜。「御津」は大伴氏の本拠があったとされる大阪湾の東浜一帯を指す地名。埴生(はにゅう)は「黄赤色の粘土」で御津の一部は埴生で有名だったようだ。
 「真っ白な砂浜の御津が黄赤色の粘土で染まっているように、はっきり言葉に出して言いませんが、私は恋していますあなたを」という歌である。

2726  風吹かぬ浦に波立ち無き名をも我れは負へるか逢ふとはなしに [一云    女と思ひて]
      (風不吹 浦尓浪立 無名乎 吾者負香 逢者無二 [一云 女跡    念而])
 「無き名をも」は「何もないのに」という意味である。
 「風も吹かない浦が波立ったかのように、何もないのに噂を立てられてしまった。逢うこともない人と」という歌である。
 異伝歌は「私は女と思われて逢うこともない人と」という歌である。

2727  菅島の夏身の浦に寄する波間も置きて我が思はなくに
      (酢蛾嶋之 夏身乃浦尓 依浪 間文置 吾不念君)
 菅島(すがしま)は三重県にあり、私も訪れている。が、その島のことか否か不詳。
 「菅島(すがしま)の夏身の浦に寄せる波のように、間を置いてではなく、四六時中恋慕しています」という歌である。

2728  近江の海沖つ島山奥まへて我が思ふ妹が言の繁けく
      (淡海之海 奥津嶋山 奥間經而 我念妹之 言繁<苦>)
 2439番歌に「近江の海沖つ島山奥まけて我が思ふ妹が言の繁けく」とある。「奥まけて」と「奥まへて」と一字違いに訓じられているが、重複歌とみてよかろう。
 「ずっと思い定めている彼女には何かと噂が絶えない」という歌である。
           (2015年7月3日記、2019年3月12日)
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