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万葉集読解・・・227(3597~3611番歌)

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      万葉集読解・・・227(3597~3611番歌)
3597  わたつみの沖つ白波立ち来らし海人娘子ども島隠る見ゆ
      (和多都美能 於伎津之良奈美 多知久良思 安麻乎等女等母 思麻我久<流>見由)
 「わたつみ」は海神のこと、海そのものをいう時もある。
 「わたつみの海の沖の方から白波が立って押し寄せて来るようだ。海の女たちも舟を漕いで島陰に隠れようとしているのが見える」という歌である。

3598  ぬばたまの夜は明けぬらし玉の浦にあさりする鶴鳴き渡るなり
      (奴波多麻能 欲波安氣奴良之 多麻能宇良尓 安佐里須流多豆 奈伎和多流奈里)
 「ぬばたまの」はおなじみの枕詞。「玉の浦」は岡山県倉敷市内の旧玉島町が有力視されている。他に同県玉野市玉という説もある。
 「漆黒の夜は明けてきたようだ。美しい玉の浦でエサをあさる鶴が鳴きながら飛んでゆく」という歌である。

3599  月読の光りを清み神島の磯廻の浦ゆ船出す我れは
      (月余美能 比可里乎伎欲美 神嶋乃 伊素未乃宇良由 船出須和礼波)
 月読((つくよみ)は『古事記』や『日本書紀』の神話に登場する月読命(つくよみのみこと)(日本書紀は月読尊)。月そのものを指すこともある。神島は複数あり、岡山県笠岡市の現在陸続きになっている神島、広島県福山市の山陽本線沿いの神島町等。余談だが愛知県伊良湖岬と三重県鳥羽市の間の海上にも神島がある。
 「磯廻(いそみ)浦ゆ」は「磯近辺の浦から」という意味。
 「月光が清らかなので、神島の磯近辺の浜から船出しよう、私は」という歌である。

3600  離れ磯に立てるむろの木うたがたも久しき時を過ぎにけるかも
      (波奈礼蘇尓 多弖流牟漏能木 宇多我多毛 比左之伎時乎 須疑尓家流香母)
 「離れ磯(そ)」は「陸地から離れた磯」。「むろの木」は「ハイネズの木」のことで、広辞苑に「ヒノキ科の匍匐(ほふく)性低木」とある。「うたがたも」は2896番歌「うたがたも言ひつつもあるか我れならば~」とあったが、その際には私は「しつこくむきに」と解した。本歌と並べて解すると「疑いもなく」とした方がよさそうだ。意味上大きな差が出ると思えないが。
 「陸地から離れたあの磯に立っているむろの木、疑いもなく長い歳月を経てきたんだろうな」という歌である。

3601  しましくもひとりありうるものにあれや島のむろの木離れてあるらむ
      (之麻思久母 比等利安里宇流 毛能尓安礼也 之麻能牟漏能木 波奈礼弖安流良武)
 「しましくも」は「しばらくの間でも」という意味。「~あれや」でいったん切れる。
 「ほんのしばらくの間でも、独りっきりでいられるものだろうか。離れ島のあのむろの木、どうしてぽつんと一本離れていられるのだろう」という歌である。
 左注に「右の八首は乗船して海路の上で作った歌」とある。

 以下は、折々に詠われた古歌。
3602  あをによし奈良の都にたなびける天の白雲見れど飽かぬかも
      (安乎尓余志 奈良能美夜古尓 多奈妣家流 安麻能之良久毛 見礼杼安可奴加毛)
 「あをによし」は枕詞。平明歌。
 「奈良の都にたなびいているあの白雲、見ても見ても見飽きないなあ」という歌である。
 左注に「右の一首は雲を詠んだもの」とある。

3603  青楊の枝伐り下ろしゆ種蒔きゆゆしき君に恋ひわたるかも
      (安乎楊疑能 延太伎里於呂之 湯種蒔 忌忌伎美尓 故非和多流香母)
 上三句は「青柳の枝を伐り下ろしてゆ種(ゆだね)を蒔く」という意味。「ゆ種(ゆだね)」は稲の種。ここまで「ゆゆしき」を導く序歌。「ゆゆしき」は「恐れ多い」という意味。
 「青柳の枝を伐り下ろして地面に挿す。そこから初の稲種を蒔くように、恐れ多いあなた様に恋続けています」という歌である。

3604  妹が袖別れて久になりぬれど一日も妹を忘れて思へや
      (妹我素弖 和可礼弖比左尓 奈里奴礼杼 比登比母伊毛乎 和須礼弖於毛倍也)
 「妹が袖」は所有格の「が」。「妹の袖」のこと。
 「彼女の袖と別れて(共寝しなくなって)から長く経つが、一日たりと彼女のことを忘れたことがあろうか」という歌である。

3605  わたつみの海に出でたる飾磨川絶えむ日にこそ我が恋やまめ
      (和多都美乃 宇美尓伊弖多流 思可麻河<泊> 多延無日尓許曽 安我故非夜麻米)
 「わたつみ」は海神のこと。飾磨川(しかまがは)は兵庫県飾磨区を流れる船場川の古名という。
 「広大な海に流れ注ぐあの飾磨川(しかまがは)が絶えることでもあれば、わが恋も止むだろうに」という歌である。
 左注に「右の三首は恋の歌」とある。

3606  玉藻刈る処女を過ぎて夏草の野島が崎に廬りす我れは [人麻呂歌曰:敏馬を過ぎて 又曰:船近づきぬ]
      (多麻藻可流 乎等女乎須疑弖 奈都久佐能 野嶋我左吉尓 伊保里須和礼波 [柿本朝臣人麻呂歌曰:敏馬乎須疑弖 又曰:布祢知可豆伎奴])
 「処女を過ぎて」の「処女(をとめ)」は地名という。野島は淡路島の西北端部。が、近くに処女という地名はない。通常神戸市灘区方面からやってくるのだが、海なので経過地がなく、処女という地名は見あたらない。私は「玉藻刈る処女」は実景そのもので、その場所は野島の近くの淡路島。素直にこう取れば、詩趣がぐっと高まる。
 「乙女たちが玉藻を刈っている。その浜辺を通過して夏草が生い茂る野島が崎にたどりついた。ここで私は草を枕に寝よう」という歌である。
 左注にある「柿本朝臣人麻呂の歌」は250番歌の「玉藻刈る敏馬を過ぎて夏草の野島が崎に船近づきぬ」を指している。同歌の場合は敏馬は地名なので疑問がない。

3607  白栲の藤江の浦に漁りする海人とや見らむ旅行く我れを [人麻呂歌曰:荒栲の 又曰:鱸釣る海人とか見らむ]
      (之路多倍能 藤江能宇良尓 伊<射>里須流 安麻等也見良武 多妣由久和礼乎 [柿本朝臣人麻呂歌曰:安良多倍乃 又曰:須受吉都流 安麻登香見良武])
 「白栲(しろたへ)の」は白い布のこと。藤江の浦は兵庫県明石市の浦。
 「真っ白な藤江の浦伝いに旅行く私を、人は漁をする海人(あまびと)と見るだろうか」という歌である。
 左注にある「柿本朝臣人麻呂の歌」は252番歌の「荒栲の藤江の浦に鱸釣る海人とか見らむ旅行く我れを」を指している。

3608  天離る鄙の長道を恋ひ来れば明石の門より家のあたり見ゆ [人麻呂歌曰:大和島見ゆ]
      (安麻射可流 比奈乃奈我道乎 孤悲久礼婆 安可思能門欲里 伊敝乃安多里見由 [柿本朝臣人麻呂歌曰:夜麻等思麻見由])
 「天離る鄙の長道ゆ」(あまざかるひなのながぢゆ)は、「大和から遠く離れた田舎の長旅をやってきて」という意味である。
 「大和から遠く離れた田舎の長旅を恋しい思いで明石海峡までやってきたら、その先にふるさとの家のあたりが見えた」という歌である。
 左注にある「柿本朝臣人麻呂の歌」は255番歌の「天離る鄙の長道ゆ恋ひ来れば明石の門より大和島見ゆ」を指している。結句の「家のあたり見ゆ」が「大和島見ゆ」となっているだけで、他は全くの同一歌。 

3609  武庫の海の庭よくあらし漁りする海人の釣舟波の上ゆ見ゆ [人麻呂歌曰:飼飯の海の 又曰:狩薦の乱れて出づる見ゆ海人の釣船]
      (武庫能宇美能 尓波余久安良之 伊射里須流 安麻能都里船 奈美能宇倍由見由 [柿本朝臣人麻呂歌曰:氣比乃宇美能 又曰:可里許毛能 美太礼弖出見由 安麻能都里船])
 武庫川は兵庫県西宮市と尼崎市の間を流れる川。その河口付近の歌。「よくあらし」は「好くあるらし」で「好天で波穏やかであるらしい」という意味。
 「武庫の海面は好天で波穏やかであるらしい、釣りをする海人(あまびと)の釣舟が波の上から浮かんで見える」という歌である。
 左注にある「柿本朝臣人麻呂の歌」は256番歌の「笥飯の海の庭好くあらし刈薦の乱れて出づ見ゆ海人の釣船」を指している。

3610  安胡の浦に舟乗りすらむ娘子らが赤裳の裾に潮満つらむか [人麻呂歌曰:網の浦 又曰:玉裳の裾に]
      (安胡乃宇良尓 布奈能里須良牟 乎等女良我 安可毛能須素尓 之保美都良武賀 [柿本朝臣人麻呂歌曰:安美能宇良 又曰:多麻母能須蘇尓])
 「安胡(あご)の浦」は三重県志摩市英虞湾が有力。
 「安胡(あご)の浦に舟乗りしようとする乙女たち。赤裳の裾が濡れているが、潮が満ちてきたようだ」という歌である。
 左注にある「柿本朝臣人麻呂の歌」は40番歌の「嗚呼見の浦に舟乗りすらむをとめらが玉裳の裾に潮満つらむか」を指している。

3611  大船に真楫繁貫き海原を漕ぎ出て渡る月人壮士
      (於保夫祢尓 麻可治之自奴伎 宇奈波良乎 許藝弖天和多流 月人乎登祜I)
 「真楫繁貫き(まかぢしじぬ)き」は「多くの梶を取りつけて」という意味。「月人壮士(つきひとをとこ)」は「お月様」のこと。天空を海に、月を月人壮士に見立てた壮大な歌。
 「大船に多くの梶を取りつけて大海原を漕ぎ出して天空を渡っていく月人壮士(つきひとをとこ)」という歌である。
 左注に「七夕の歌一首で、柿本朝臣人麻呂の歌」とあるが、前五歌と異なって柿本人麿作とされる歌に登載されていない。
           (2016年6月17日記、2019年3月30日)
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