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Channel: 古代史の道
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幸福とは

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 私はかって離島に出かけては島内を歩いて回った。私の密かな楽しみのひとつだった。その中で強烈な印象を抱き、生涯忘れようがない記憶として残っていることがある。それは三重県の答志島を訪れた時の事である。同島は鳥羽市に属する小さな島である。海岸延長26.3km、面積は6.98平方キロしかない。西の端の桃取(とうじゅ)港から東の端の和具港まで県道「答志桃取線」が通っているのが、島内唯一の幹線道路。
 さて、私はこの答志桃取線を桃取から和具までゆっくり歩いた。いわば島を横断して歩いたのである。その途中で私はお婆さんに出合った。桃取に近い山中だったが、山中の狭い畑に行く所で、道すがら色々話してくれた。それによると、彼女は島内で生まれ育ち、島の人と結婚し、子供を3人もうけた。そこまでは普通の話である。彼女は島内から一歩も外にでたことがなく、延々と山中の狭い畑を耕し続けているのだという。東の端の和具でさえ、年に数回程度しか行くことがないのだという。
 これには私は驚いた。鳥羽市佐田浜港までほんのひとまたぎの島である。私は書いている。「狭い離島であっても彼女にはそこが宇宙なのかと思うと、妙に温かい気持ちになった。」と・・・。
 私は「幸福とは何であろう」と考え込まざるを得なかった。車が発達し、インターネット社会が未曾有の発達を遂げた今日、狭い島内で一生を送る人はおそらく稀有な存在に相違ない。彼女の話の合間から取り立てて不満らしきもものは一切聞こえてこなかった。それどころか「この島に生まれてよかった」という感想だった。かってはお婆さんのような存在は珍しくなく、「そこは宇宙の中心だった」に相違ない。うーむ。人の幸せとは何だろう。生涯忘れようがない、以上の出来事に出合って、私は答えの出ない疑問を突きつけられ、深く考え込まざるを得なかった。あのお婆ちゃんは今も畑を耕しているだろうか。
          (2015年6月5日)
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