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万葉集読解・・・196(3221~3229番歌)
万葉集巻13の開始だが、この巻13は特異な巻である。長歌が異常に多い。長歌は全体で見ると6%ほどしかない。が、この巻は何と52%を占める。つまり長歌は66首に及び、短歌(旋頭歌1首を含む)62首より多い。
長歌が多いのはこの巻だけで、次に多いのが巻6で、27首ある。それでも巻6全体の17%を占めるに過ぎない。こんなわけで巻13は長歌が異常に多い。長歌は後でまとめてなどと言ってられない。そこで、例外巻として巻13だけは長歌の読解も併せて行う。長歌は長いので、各語句の読解は煩雑を嫌って最小限にとどめたい。むろん、全文の読解は省略しないで行う。
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万葉集読解・・・196(3221~3229番歌)
万葉集巻13の開始だが、この巻13は特異な巻である。長歌が異常に多い。長歌は全体で見ると6%ほどしかない。が、この巻は何と52%を占める。つまり長歌は66首に及び、短歌(旋頭歌1首を含む)62首より多い。
長歌が多いのはこの巻だけで、次に多いのが巻6で、27首ある。それでも巻6全体の17%を占めるに過ぎない。こんなわけで巻13は長歌が異常に多い。長歌は後でまとめてなどと言ってられない。そこで、例外巻として巻13だけは長歌の読解も併せて行う。長歌は長いので、各語句の読解は煩雑を嫌って最小限にとどめたい。むろん、全文の読解は省略しないで行う。
雑 歌(3221番~3247番までの長短歌27首)
3221番長歌
冬こもり 春さり来れば 朝には 白露置き 夕には 霞たなびく 風が吹く 木末が下に 鴬鳴くも
(冬木成 春去来者 朝尓波 白露置 夕尓波 霞多奈妣久 汗瑞能振 樹奴礼我之多尓 鴬鳴母)
3221番長歌
冬こもり 春さり来れば 朝には 白露置き 夕には 霞たなびく 風が吹く 木末が下に 鴬鳴くも
(冬木成 春去来者 朝尓波 白露置 夕尓波 霞多奈妣久 汗瑞能振 樹奴礼我之多尓 鴬鳴母)
「冬こもり」は枕詞説もあるが、枕詞(?)。「冬隠り」で「冬が隠れる」すなわち「冬が去り」で十分意味が通る。「木末(こぬれ)が下に」は「枝先では」という意味。
「冬が去って春がやって来ると、朝方は白露が降り、夕方には霞がたなびく。風が吹いて枝先が揺れると、そこに鶯がいて鳴く」という歌である。
「冬が去って春がやって来ると、朝方は白露が降り、夕方には霞がたなびく。風が吹いて枝先が揺れると、そこに鶯がいて鳴く」という歌である。
3222番長歌
みもろは 人の守る山 本辺は 馬酔木花咲き 末辺は 椿花咲く うらぐはし 山ぞ 泣く子守る山
(三諸者 人之守山 本邊者 馬酔木花開 末邊方 椿花開 浦妙 山曽 泣兒守山)
みもろは 人の守る山 本辺は 馬酔木花咲き 末辺は 椿花咲く うらぐはし 山ぞ 泣く子守る山
(三諸者 人之守山 本邊者 馬酔木花開 末邊方 椿花開 浦妙 山曽 泣兒守山)
「みもろは」は三諸の山で、神宿る山。「人が大切にする山」。馬酔木(あせび)はツツジ科の常緑低木。春、白い花をつける。「うらぐはし」は「心が霊妙になる」という意味である。
「三諸の山は人が大切にする神の山。麓には馬酔木が咲き、高地には椿が咲く。まこと霊妙な山よ。泣く子をやさしく見守る山よ」という歌である。
「三諸の山は人が大切にする神の山。麓には馬酔木が咲き、高地には椿が咲く。まこと霊妙な山よ。泣く子をやさしく見守る山よ」という歌である。
3223番長歌
かむとけの 光れる空の 九月の しぐれの降れば 雁がねも いまだ来鳴かぬ 神なびの 清き御田屋の 垣つ田の 池の堤の 百足らず 斎槻の枝に 瑞枝さす 秋の黄葉 まき持てる 小鈴もゆらに 手弱女に 我れはあれども 引き攀ぢて 枝もとををに ふさ手折り 我は持ちて行く 君がかざしに
(霹靂之 日香天之 九月乃 <鍾>礼乃落者 鴈音文 未来鳴 甘南備乃 清三田屋乃 垣津田乃 池之堤<之> 百不足 五十槻枝丹 水枝指 秋赤葉 真割持 小鈴<文>由良尓 手弱女尓 吾者有友 引攀而 峯文十遠仁 に手折 吾者持而徃 公之頭刺荷)
かむとけの 光れる空の 九月の しぐれの降れば 雁がねも いまだ来鳴かぬ 神なびの 清き御田屋の 垣つ田の 池の堤の 百足らず 斎槻の枝に 瑞枝さす 秋の黄葉 まき持てる 小鈴もゆらに 手弱女に 我れはあれども 引き攀ぢて 枝もとををに ふさ手折り 我は持ちて行く 君がかざしに
(霹靂之 日香天之 九月乃 <鍾>礼乃落者 鴈音文 未来鳴 甘南備乃 清三田屋乃 垣津田乃 池之堤<之> 百不足 五十槻枝丹 水枝指 秋赤葉 真割持 小鈴<文>由良尓 手弱女尓 吾者有友 引攀而 峯文十遠仁 に手折 吾者持而徃 公之頭刺荷)
「かむとけの」は「落雷の」である。「神なびの」は「神のいらっしゃる所」で、通常神社や山を指す。「百足らず」は「百に足らない」で次句の「斎槻の枝に」(原文:五十槻枝丹)の言い換えである。「神聖な槻(つき=ケヤキの古名)」という意味。
「落雷の閃光が走る9月の空にしぐれが降る。時期早く、まだ雁がやって来て鳴かない、その山の清らかな御田。境内のその御田の池の堤に生いる斎槻(いつき)の枝が瑞々しい。秋の黄葉を腕に巻いて付けた小鈴が揺れている。そんな手弱女(たをやめ)に過ぎない私であるが、ケヤキの枝をひきちぎって手一杯持ち、あの方の所にいきます。あの方の髪飾りにするために」という歌である。
「落雷の閃光が走る9月の空にしぐれが降る。時期早く、まだ雁がやって来て鳴かない、その山の清らかな御田。境内のその御田の池の堤に生いる斎槻(いつき)の枝が瑞々しい。秋の黄葉を腕に巻いて付けた小鈴が揺れている。そんな手弱女(たをやめ)に過ぎない私であるが、ケヤキの枝をひきちぎって手一杯持ち、あの方の所にいきます。あの方の髪飾りにするために」という歌である。
3224 ひとりのみ見れば恋しみ神なびの山の黄葉手折り来り君
(獨耳 見者戀染 神名火乃 山黄葉 手折来君)
「恋しみ」のみは「~ので」の「み」。字義どおりなら「恋しいので」となる。ここは「惜しいので」という意味。「私一人だけで眺めるのは惜しいので、神聖な山の黄葉を手折ってやってきました。あなたと二人眺めようと」という歌である。
これは反歌(短歌)で、右二首はひと組という注が付いている。
(獨耳 見者戀染 神名火乃 山黄葉 手折来君)
「恋しみ」のみは「~ので」の「み」。字義どおりなら「恋しいので」となる。ここは「惜しいので」という意味。「私一人だけで眺めるのは惜しいので、神聖な山の黄葉を手折ってやってきました。あなたと二人眺めようと」という歌である。
これは反歌(短歌)で、右二首はひと組という注が付いている。
3225番長歌
天雲の 影さへ見ゆる こもりくの 泊瀬の川は 浦なみか 舟の寄り来ぬ 磯なみか 海人の釣せぬ よしゑやし 浦はなくとも よしゑやし 磯はなくとも 沖つ波 競ひ漕入り来 海人の釣舟
(天雲之 影塞所見 隠来矣 長谷之河者 浦無蚊 船之依不来 礒無蚊 海部之釣不為 吉咲八師 浦者無友 吉畫矢寺 礒者無友 奥津浪 諍榜入来 白水郎之釣船)
天雲の 影さへ見ゆる こもりくの 泊瀬の川は 浦なみか 舟の寄り来ぬ 磯なみか 海人の釣せぬ よしゑやし 浦はなくとも よしゑやし 磯はなくとも 沖つ波 競ひ漕入り来 海人の釣舟
(天雲之 影塞所見 隠来矣 長谷之河者 浦無蚊 船之依不来 礒無蚊 海部之釣不為 吉咲八師 浦者無友 吉畫矢寺 礒者無友 奥津浪 諍榜入来 白水郎之釣船)
「天雲の影さへ見ゆる」は「そらの雲が川面にくっきり写って見える」ことを言っている。「こもりくの」は18例中すべて泊瀬(奈良県桜井市)にかかる典型的な枕詞。「浦なみか」と「磯なみか」は「~がないせいなのか」である。
「そらの雲が川面にくっきり写って見えるほど澄んだ泊瀬川。(海のように)浦がないせいか舟が寄ってこない。また磯がないせいか釣りをする海人(あまびと)もいない。が、たとえ浦はなくとも、磯はなくとも沖の波に乗って、こぞって漕ぎ入れてきてほしい。 海人の釣舟さんよ」という歌である。
「そらの雲が川面にくっきり写って見えるほど澄んだ泊瀬川。(海のように)浦がないせいか舟が寄ってこない。また磯がないせいか釣りをする海人(あまびと)もいない。が、たとえ浦はなくとも、磯はなくとも沖の波に乗って、こぞって漕ぎ入れてきてほしい。 海人の釣舟さんよ」という歌である。
3226 さざれ波浮きて流るる泊瀬川寄るべき磯のなきが寂しさ
(沙邪礼浪 浮而流 長谷河 可依礒之 無蚊不怜也)
「さざれ波」は「さざ波」のこと。平明歌。「さざ波が流れる静かな泊瀬川。なのに舟が寄るべき磯がない。惜しいことだ」という歌である。
右二首、長短歌一組。
(沙邪礼浪 浮而流 長谷河 可依礒之 無蚊不怜也)
「さざれ波」は「さざ波」のこと。平明歌。「さざ波が流れる静かな泊瀬川。なのに舟が寄るべき磯がない。惜しいことだ」という歌である。
右二首、長短歌一組。
3227番長歌
葦原の 瑞穂の国に 手向けすと 天降りましけむ 五百万 千万神の 神代より 言ひ継ぎ来る 神なびの みもろの山は 春されば 春霞立つ 秋行けば 紅にほふ 神なびの みもろの神の 帯ばせる 明日香の川の 水脈早み 生ひため難き 石枕 苔生すまでに 新夜の 幸く通はむ 事計り 夢に見せこそ 剣太刀 斎ひ祭れる 神にしませば
(葦原笶 水穂之國丹 手向為跡 天降座兼 五百万 千万神之 神代従 云續来在 甘南備乃 三諸山者 春去者 春霞立 秋徃者 紅丹穂經 <甘>甞備乃 三諸乃神之 帶為 明日香之河之 水尾速 生多米難 石枕 蘿生左右二 新夜乃 好去通牟 事計 夢尓令見社 劔刀 齊祭 神二師座者)
葦原の 瑞穂の国に 手向けすと 天降りましけむ 五百万 千万神の 神代より 言ひ継ぎ来る 神なびの みもろの山は 春されば 春霞立つ 秋行けば 紅にほふ 神なびの みもろの神の 帯ばせる 明日香の川の 水脈早み 生ひため難き 石枕 苔生すまでに 新夜の 幸く通はむ 事計り 夢に見せこそ 剣太刀 斎ひ祭れる 神にしませば
(葦原笶 水穂之國丹 手向為跡 天降座兼 五百万 千万神之 神代従 云續来在 甘南備乃 三諸山者 春去者 春霞立 秋徃者 紅丹穂經 <甘>甞備乃 三諸乃神之 帶為 明日香之河之 水尾速 生多米難 石枕 蘿生左右二 新夜乃 好去通牟 事計 夢尓令見社 劔刀 齊祭 神二師座者)
「葦原の瑞穂の国に」であるが、『古事記』や『日本書紀』にも使われている神話上の日本国土のこと。「手向(たむ)けすと」は物を供えてお祈りすること。「五百万(いほよろづ)千万(ちよろづ)神の」は「無数の神々」の意。三諸(みもろ)の山は神の山。「手向けすと」と「みもろの山は」は間が離れている。が、天降ってきた神々が同じ神のみもろの山に手向けるというのは不可思議なので、「手向けすと」は「みもろの山は」に直接かかる言い方と分かる。「生(お)ひため難き」は「苔生(こけむ)すまでに」にかかる形容句。「苔が付いて成長しがたく」という意味である。「剣太刀(つるぎたち)」は枕詞。
「この瑞穂の国に天降っていらっしゃった無数の神々の、その神代の時代から、手向けなさいと語り継いできた三諸(みもろ)の山は、春になると霞が立ち、秋になると紅(くれない)に染まる。その神々しいみもろの神が帯としていらっしゃる明日香川。明日香川の水流が早く、岩に苔が付いて成長しがたく、苔むすまでに毎夜毎夜を迎えなければならない。願いが成就するのを願って通(かよ)ってまいります。その次第を夢にお示し下さい。あなた様はこのお山に祭られている神でいらっしゃるのですから」という歌である。
「この瑞穂の国に天降っていらっしゃった無数の神々の、その神代の時代から、手向けなさいと語り継いできた三諸(みもろ)の山は、春になると霞が立ち、秋になると紅(くれない)に染まる。その神々しいみもろの神が帯としていらっしゃる明日香川。明日香川の水流が早く、岩に苔が付いて成長しがたく、苔むすまでに毎夜毎夜を迎えなければならない。願いが成就するのを願って通(かよ)ってまいります。その次第を夢にお示し下さい。あなた様はこのお山に祭られている神でいらっしゃるのですから」という歌である。
3228 神なびの三諸の山に斎ふ杉思ひ過ぎめや苔生すまでに
(神名備能 三諸之山丹 隠蔵杉 思将過哉 蘿生左右)
「斎(いは)ふ杉」は神木。あがめ祭る杉。「~杉」は「思ひ過ぎ」を導く序歌。その「思ひ過ぎめや」だが、「思ひ」+「過ぎめや」で「その思い(願い)が過ぎ去ってしまうだろうか」という意味である。「神聖な三諸の山に祭られている杉。その杉のように願いが過ぎ去ることがあるでしょうか。苔生す長い長い後まで」という歌である。
(神名備能 三諸之山丹 隠蔵杉 思将過哉 蘿生左右)
「斎(いは)ふ杉」は神木。あがめ祭る杉。「~杉」は「思ひ過ぎ」を導く序歌。その「思ひ過ぎめや」だが、「思ひ」+「過ぎめや」で「その思い(願い)が過ぎ去ってしまうだろうか」という意味である。「神聖な三諸の山に祭られている杉。その杉のように願いが過ぎ去ることがあるでしょうか。苔生す長い長い後まで」という歌である。
3229 斎串立て神酒据ゑ奉る神主部の髻華の玉かげ見ればともしも
(五十串立 神酒座奉 神主部之 雲聚玉蔭 見者乏文)
「斎串(いぐし)立て」は「若竹等で作った神聖な串を神前に立てる」こと。神酒(みわ)は神前に供える酒。「神主部(はふりべ)」は神官。「髻華(うず)の玉かげ」は「髪に挿す飾りのヒカゲノカズラ」。髻華(うず)は木の葉、花、玉などで飾る。かげはヒカゲノカズラで、ヒカゲノカズラ科の常緑シダ植物。
「神前に斎串を立て神酒を供え、神官たちの髪に挿した髪飾りやヒカゲノカズラを見るとおごそかな気分になる」という歌である。
右の長短歌三首で一組
(2016年1月20日記)
(五十串立 神酒座奉 神主部之 雲聚玉蔭 見者乏文)
「斎串(いぐし)立て」は「若竹等で作った神聖な串を神前に立てる」こと。神酒(みわ)は神前に供える酒。「神主部(はふりべ)」は神官。「髻華(うず)の玉かげ」は「髪に挿す飾りのヒカゲノカズラ」。髻華(うず)は木の葉、花、玉などで飾る。かげはヒカゲノカズラで、ヒカゲノカズラ科の常緑シダ植物。
「神前に斎串を立て神酒を供え、神官たちの髪に挿した髪飾りやヒカゲノカズラを見るとおごそかな気分になる」という歌である。
右の長短歌三首で一組
(2016年1月20日記)
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