Quantcast
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1223

万葉集読解・・・208(3333~3343番歌)

 巻13~16メニュー へ   
その 209 へ 
         
     万葉集読解・・・208(3333~3343番歌)
3333番長歌
  大君の 命畏み 蜻蛉島 大和を過ぎて 大伴の 御津の浜辺ゆ 大船に 真楫しじ貫き 朝なぎに 水手の声しつつ 夕なぎに 楫の音しつつ 行きし君 いつ来まさむと 占置きて 斎ひわたるに たはことか 人の言ひつる 我が心 筑紫の山の 黄葉の 散りて過ぎぬと 君が直香を
 (王之 御命恐 秋津嶋 倭雄過而 大伴之 御津之濱邊従 大舟尓 真梶繁貫 旦名伎尓 水手之音為乍 夕名寸尓 梶音為乍 行師君 何時来座登 大卜置而 齊度尓 狂言哉 人之言釣 我心 盡之山之 黄葉之 散過去常 公之正香乎)

 蜻蛉島(あきづしま)は「日本の」という意味。その代表ということでここは「蜻蛉島は大和の国」というニュアンスである。美称とも枕詞とも取れる。御津の浜は大伴氏の本拠があったとされる大阪湾の浜だという。「占(うら)置きて斎(いは)ひわたるに」は「占いを立てて神様にお祈りし続けるのに」という歌である。「たはことか」は「悪い冗談か」という意味である。「我が心筑紫の山の」は「心を尽くす」を「筑紫」にかけた言い方。
 「大君の仰せを慎んでお受けし、蜻蛉島は大和を過ぎて、大伴氏ゆかりの御津の浜辺から船出せんとする。朝凪どきに大船に梶を揃えて穴に通す水手(かこ)の声が聞こえ、夕凪どきに梶の音が鳴り響いて出発したあの方。いつ戻っていらっしゃるのかと、占いを立てて神様にお祈りし続けるのに、悪い冗談か、人が伝えてあの方はお亡くなりになったと・・・。心を尽くすという筑紫の山の黄葉のように散っていかれたのか、あの姿のあの方が」という歌である。

3334  たはことか人の言ひつる玉の緒の長くと君は言ひてしものを
      (狂言哉 人之云鶴 玉緒乃 長登君者 言手師物乎)
 「たはことか」は前歌参照。「お亡くなりになったという、人の伝聞は悪い冗談なのだわ、だって玉を通した紐のように長く、長くとあの人は言っていたんですもの」という歌である。
 以上、長反歌二首

3335番長歌
  玉桙の 道行く人は あしひきの 山行き野行き にはたづみ 川行き渡り 鯨魚取り 海道に出でて 畏きや 神の渡りは 吹く風も のどには吹かず 立つ波も 凡には立たず とゐ波の 塞れる道を 誰が心 いたはしとかも 直渡りけむ 直渡りけむ
 (玉桙之 道去人者 足桧木之 山行野徃 直海 川徃渡 不知魚取 海道荷出而 惶八 神之渡者 吹風母 和者不吹 立浪母 踈不立 跡座浪之 塞道麻 誰心 勞跡鴨 直渡異六 直渡異六)

 「玉桙(たまほこ)の」、「あしひきの」、「にはたづみ」および「鯨魚(いさな)取り」は共に枕詞。「鯨魚取り」は初見だが、その例は12例に及び、その大部分(10例)が長歌。皆「海」ないし「浜」にかかる典型的な枕詞。「とゐ波の」は「うねり立つ波に」、「塞(さや)れる道を」は「さえぎる道を」という意味である。「直(ただ)渡りけむ」は「まっすぐ渡ってやってきた」という意味。
 「道を行く人は、山を越え、野を渡り、川を渡り、海の道に出て、恐れ多くも神の渡りを敢行する。吹く風ものどかには吹いてくれず、立つ波も普通に立つ波ではなく、うねり立つ波に遮られる艱難辛苦の道のりである。にもかかわらず、誰の心を思って、ここまでまっすぐ渡ってやってきたのだろう、まっすぐ渡ってやってきたのだろう」という歌である。

3336番長歌
  鳥が音の 聞こゆる海に 高山を 隔てになして 沖つ藻を 枕になし ひむし羽の 衣だに着ずに 鯨魚取り 海の浜辺に うらもなく 臥やせる人は 母父に 愛子にかあらむ 若草の 妻かありけむ 思ほしき 言伝てむやと 家問へば 家をも告らず 名を問へど 名だにも告らず 泣く子なす 言だにとはず 思へども 悲しきものは 世間にぞある 世間にぞある
 (鳥音之 所聞海尓 高山麻 障所為而 奥藻麻 枕所為 <蛾>葉之 衣谷不服尓 不知魚取 海之濱邊尓 浦裳無 所宿有人者 母父尓 真名子尓可有六 若を之 妻香有異六 思布 言傳八跡 家問者 家乎母不告 名問跡 名谷母不告 哭兒如 言谷不語 思鞆 悲物者 世間有 <世間有>)

 「ひむし羽の」は火取虫のことで広辞苑によると「火に集まる虫」のことという。蛾の類である。「鯨魚取り」は前歌参照。「うらもなく」は「心もなく」すなわち「無心に」という意味。「泣く子なす」は「泣く子のように」ということだが「泣きじゃくって物も言えない」という意味か?。
 「鳥の鳴き声が聞こえる海に、高山を隔て(背後にし)、沖に浮かぶ藻を枕にして、海の浜辺に無心に横たわっている人。その人は母や父にとっては愛しい子だろうに。また若草のような妻もあるだろうと思えるのに。何か言づけもあるだろうと思って、家を訊ねたが家の在処も名乗らない。名前を聞いてもそれさえ言わない。まるで泣きじゃくる子のように言葉を発しない。思えば悲しい世の中だねえ。世の中だねえ」という歌である。

3337  母父も妻も子どもも高々に来むと待ちけむ人の悲しさ
      (母父毛 妻毛子等毛 高々二 来跡待異六 人之悲紗)
 「高々に」はつま先だてて待つ意。「今か今か」である。「母も父も、また妻も子供も今に来るだろう、今に来るだろうと待っている人は悲しい」という歌である。

3338  あしひきの山道は行かむ風吹けば波の塞れる海道は行かじ
      (蘆桧木乃 山道者将行 風吹者 浪之塞 海道者不行)
 「あしひきの」はおなじみの枕詞。「塞(さや)れる」は「さえぎる」である。「私は山道を行こう。風が吹くと波にさえぎられる海路は行かないで」という歌である。

 或本の歌にはこうある。「備後國(きびのくにのしりのくに)の神嶋の濱に調使首(つきのおみのおびと)の死体を見て作歌に及んだ長短歌二首」。以下の歌。
3339番長歌
 玉桙の 道に出で立ち あしひきの 野行き山行き にはたづみ 川行き渡り 鯨魚取り 海道に出でて 吹く風も 凡には吹かず 立つ波も のどには立たぬ 畏きや 神の渡りの しき波の 寄する浜辺に 高山を 隔てに置きて 浦ぶちを 枕に巻きて うらもなく こやせる君は 母父が 愛子にもあらむ 若草の 妻もあらむと 家問へど 家道も言はず 名を問へど 名だにも告らず 誰が言を いたはしとかも とゐ波の 畏き海を 直渡りけむ
 (玉桙之 道尓出立 葦引乃 野行山行 潦 川徃渉 鯨名取 海路丹出而 吹風裳 母穂丹者不吹 立浪裳 箟跡丹者不起 恐耶 神之渡乃 敷浪乃 寄濱部丹 高山矣 部立丹置而 汭潭矣 枕丹巻而 占裳無 偃為公者 母父之 愛子丹裳在将 稚草之 妻裳有将等 家問跡 家道裳不云 名矣問跡 名谷裳不告 誰之言矣 勞鴨 腫浪能 恐海矣 直渉異将)

 備後國は岡山県の西部から広島県の東部にかけてあった国。岡山県笠岡市に神島が存在する。調使首は伝未詳。
 本歌は3335番長歌と3336番長歌を合体させたような異伝歌。なので両歌を参照。
「玉桙(たまほこ)の」、「あしひきの」、「にはたづみ」および「鯨魚(いさな)取り」は共に枕詞。「しき波」は「重なる波」、「浦ぶちを」は「入江の岸を」。以下、語句の読解は3335番長歌及び3336番長歌を参照。
 「道に出て、野を渡り、山を越え、川を渡り、海の道に出て、吹く風も普通には吹いてくれず、立つ波ものどかには立たない。恐れ多くも神の渡りだ。重なる波が寄せる浜辺に、高山を隔て(背後にし)、入江の岸を枕にし、海の浜辺に無心に横たわっているお人。その人は母や父にとっては愛しい子だろうに。また若草のような妻もあるだろうと思えるのに。何か言づけもあるだろうと思って、家を訊ねたが家の在処も名乗らない。名前を聞いてもそれさえ言わない。いったいどなたの言葉を大切に思って、うねる波の恐ろしい海をまっすぐ渡ってきたのだろう」という歌である。

3340  母父も妻も子どもも高々に来むと待つらむ人の悲しさ
      (母父裳 妻裳子等裳 高々丹 来将跡待 人乃悲)
 3337番歌と同一歌。「母も父も、また妻も子供も今に来るだろう、今に来るだろうと待っている人は悲しい」という歌である。

3341  家人の待つらむものをつれもなき荒磯を巻きて寝せる君かも
      (家人乃 将待物矣 津煎裳無 荒礒矣巻而 偃有公鴨)
 「つれもなき」は「つれない」のことで、「何のゆかりもない」という意味。「家族の人が待っているだろうに、何のゆかりもない荒磯に横たわっているお人よなあ」という歌である。

3342  浦ぶちにこやせる君を今日今日と来むと待つらむ妻し悲しも
      (汭潭 偃為公矣 今日々々跡 将来跡将待 妻之可奈思母)
 「浦ぶちに」は「入江の岸に」という意味である。「こやせる」は「横たわる」。「妻し」のしは強意の「し」。
 「入江の岸に横たわるお人よ。今か今かと帰りを待っているだろう妻を察すると悲しい」という歌である。

3343  浦波の来寄する浜につれもなくこやせる君が家道知らずも
      (汭浪 来依濱丹 津煎裳無 偃為<公>賀 家道不知裳)
 前々歌及び前歌を一読すれば読解不要の平明歌。「浜辺に打ち寄せる浦波。その浜に何のゆかりもないのに横たわっているお人。きっと家路が分からないのでしょう」という歌である。
 以上長反歌九首。
           (2016年3月7日記)
Image may be NSFW.
Clik here to view.
イメージ 1


Viewing all articles
Browse latest Browse all 1223

Trending Articles