箸とスプーン

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　今朝のことである。長箸を取ろうとして取りぞこない、スプーンを取ってしまった。長箸とスプーンは同じ容器に一緒に入れてある。
　本欄でも書いた記憶があるが、私はほぼ毎朝うどんを食している。手足が衰えるといけないと思って自らうどん料理を作っている。ダシは主として、小振りの煮干しと干しワカメ、椎茸。それに野菜はネギとほうれん草ないし小松菜、後はチクワとタマゴ。そうして作った汁に、茹でたウドンを入れて食すのである。毎朝、毎朝。相棒から「よく飽きないわね」と言われる。「パンとコーヒーだけより遙かにましだよ」これが私の返答。
　が、そんなことはどうでもいい。煮立ったウドンをかき混ぜようと、長箸のつもりで長柄のスプーンを取ってしまった。しかも、ご丁寧にそのスプーンでかき混ぜようとしてすんでの所で熱湯に触れそうになり、あやうく火傷をする所だった。
　なぜ、こんなことを記したかというと、取り違いは無意識の所作だったのである。ほとんど毎日同じ動作を行っているので、取り違えるはずもないし、万が一取り違えても箸とスプーンの区別がつかないことなんて考えられない。なので、見ないで手を伸ばし、箸を取ったり、スプーンを取ったりしている。脳が覚えているのか、これまで十年近く、無意識のうちに手探りし、取り違えたことはない。
　なのに今回取り違えてしまった。さしずめ、推理小説ならあり得ないとして筋が進行して行く所。が、現実には取り違え、あやうく火傷をする所だった。火傷しなくて幸いだったなどと喜んでいられない。箸とスプーンだったからよかったものの、たとえばドアだったら、閉めるところを誤って押したら外に転がり出て、階段を転がり落ちたかも知れない。車のブレーキとアクセルの踏み違えなら大変なことになる。これらは無意識の内に行うほど馴れた行為で、うっかりで済まないケースだ。くわばら、くわばら。
　　　　　　　　　　　　　（２０１７年１２月１７日）