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万葉集読解・・・203(3289~3298番歌)

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     万葉集読解・・・203(3289~3298番歌)
3289番長歌
  み佩かしを 剣の池の 蓮葉に 溜まれる水の ゆくへなみ 我がする時に 逢ふべしと 逢ひたる君を な寐ねそと 母聞こせども 我が心 清隅の池の 池の底 我れは忘れじ 直に逢ふまでに
 (御佩乎 劔池之 蓮葉尓 渟有水之 徃方無 我為時尓 應相登 相有君乎 莫寐等 母寸巨勢友 吾情 清隅之池之 池底 吾者不忘 正相左右二)

 「み佩(は)かしを」は佩刀のことで、「身に帯びる」こと。本歌の場合は「剣の池」にかかる枕詞として使われている。本歌一例しか例が無く、枕詞(?)。剣の池は『日本書紀』応神天皇11年の記事に出てくる池。奈良県橿原市石川にある池。「ゆくえなみ」は「~ないので」の「み」。「な寐ねそ」は「な~そ」の禁止形。「清隅(きよすみ)の池」は所在不詳。不意にこの池が出てくる必然性が感じられない。「清く澄んだ剣の池」の言い換えのように思われる。
 「逢ひたる君を」は「直接逢った君を」というふうに「岩波大系本」以下各書は解している。が、そう解すると「な寐ねそと」が妙だし、結句の「直に逢ふまでに」が意味をなさない。私は「逢ひたる君を」は仮定法で「これから逢う君を」と解さないとつじつまが合わない。

  (口語訳)
 「み佩(は)かしの剣といいますが、その剣の池に浮かぶ蓮の葉に溜まった水のように行方が分からないとき、連絡があって逢おうとおっしゃった。そんなあなたのことを母に告げたら母は、そんな不意に連絡してきた男と逢っても共寝などしてはいけませんよとおっしゃった。けれども、せっかく連絡下さったのですもの。清く澄んだ剣の池の池の底のように私は信じたい(忘れない)。直接あの方にお逢いするまでは」という歌である。

3290  いにしへの神の時より逢ひけらし今の心も常忘らえず
      (古之 神乃時従 會計良思 今心文 常不所忘)
 「逢ひけらし」は「逢っていたらしい」という意味である。
 「大昔の神代の時からお逢いしてたんですね。今の今も常に忘れていません」という歌である。
 以上長反歌二首。

3291番長歌
  み吉野の 真木立つ山に 青く生ふる 山菅の根の ねもころに 我が思ふ君は 大君の 任けのまにまに [或本云 大君の 命かしこみ] 鄙離る 国治めにと [或本云 天離る 鄙治めにと] 群鳥の 朝立ち去なば 後れたる 我れか恋ひむな 旅ならば 君か偲はむ 言はむすべ 為むすべ知らに [或書有 あしひきの 山の木末に 句也] 延ふ蔦の 行きの [或本無歸之句也] 別れのあまた 惜しきものかも
 (三芳野之 真木立山尓 青生 山菅之根乃 慇懃 吾念君者 天皇之 遣之万々 [或本云 王 命恐] 夷離 國治尓登 [或本云 天踈 夷治尓等] 群鳥之 朝立行者 後有 我可将戀奈 客有者 君可将思 言牟為便 将為須便不知 [或書有 足日木 山之木末尓 句也] 延津田乃 歸之 [或本無歸之句也] 別之數 惜物可聞)

 「み吉野の~山菅の根の」までは「ねもころに」を導く序歌。「鄙離(ひなざか)る」は「都を遠く離れた田舎の」という意味。「任(ま)けのまにまに」は「赴任せよとの、み言葉のままに」という意味である。「後れたる」は「後に残された」という意味。

  (口語訳)
 「み吉野の立派な木々が立つ山に青々と生える山菅(やますが)の根のように、ねんごろに私がお慕いしているわが君は、大君(天皇)の赴任せよとの、み言葉のままに(或本には、大君のご命令を慎んでお受けし、とある)遠く離れた国を治めんと(或本には、遠く離れた田舎の地を治めんと、とある)、群鳥のように朝出発してしまった。後に残された私はどんなに恋い焦がれることだろう。旅にあるあなたも私を偲んでくれるだろうか。言いようもなく、なすすべも知りません(或書には、あしひきの山の梢に、とある)。這う蔦(つた)が行き(或本には行きの句なし)別れるようでひどく惜しくてなりません」という歌である。

3292  うつせみの命を長くありこそと留まれる我れは斎ひて待たむ
      (打蝉之 命乎長 有社等 留吾者 五十羽旱将待)
 「うつせみの」は「この世の」という意味。「斎(いは)ひて」は「お祈りして」という意味である。
 「この世の命が(あなたがお帰りになるまで)長くあって欲しいと念じ、後に残された私はひたすらお祈りしてお待ちします」という歌である。
 以上長反歌二首。

3293番長歌
  み吉野の 御金が岳に 間なくぞ 雨は降るといふ 時じくぞ 雪は降るといふ その雨の 間なきがごと その雪の 時じきがごと 間もおちず 我れはぞ恋ふる 妹が正香に
 (三吉野之 御金高尓 間無序 雨者落云 不時曽 雪者落云 其雨 無間如 彼雪 不時如 間不落 吾者曽戀 妹之正香尓)

 「御金が岳」は、奈良県吉野郡吉野町の南端部に金峰神社がある。延喜式に登載されている、いわゆる式内社である。その東の青根ケ峰のことと思われる。「時じくぞ」は「時なしに」という意味。結句の「妹が正香に」は「彼女の麗姿に」という意味である。

  (口語訳)
 「み吉野の御金(みかね)が岳に絶え間なく雨はふるという、 時なしに雪は降るという。その雨の絶え間ないように、その雪の時なしのように、間断なく私は恋続けるだろう彼女の麗姿に」という歌である。

3294  み雪降る吉野の岳に居る雲の外に見し子に恋ひわたるかも
      (三雪落 吉野之高二 居雲之 外丹見子尓 戀度可聞)
 「外(よそ)に見し子に」は「よそながら見たあの子に」という意味。
 「み雪降る吉野の岳にかかっている雲のように、よそながら見たあの子に恋い焦がれ続けている」という歌である。
 以上長反歌二首。

3295番長歌
  うちひさつ 三宅の原ゆ 直土に 足踏み貫き 夏草を 腰になづみ いかなるや 人の子ゆゑぞ 通はすも我子 うべなうべな 母は知らじ うべなうべな 父は知らじ 蜷の腸 か黒き髪に 真木綿もち あざさ結ひ垂れ 大和の 黄楊の小櫛を 押へ刺す うらぐはし子 それぞ我が妻
 (打久津 三宅乃原従 常土 足迹貫 夏草乎 腰尓魚積 如何有哉 人子故曽 通簀文吾子 諾々名 母者不知 諾々名 父者不知 蜷腸 香黒髪丹 真木綿持 阿邪左結垂 日本之 黄楊乃小櫛乎 抑刺 刺細子 彼曽吾孋)

 「うちひさつ」を見たとき、「うちひさす」の誤りではないかと思った。「うちひさす」は12例あって、すべて「みや」にかかる典型的な枕詞。「うちひさつ」の方は本歌のほかにもう一例あって3505番歌に「うちひさつ宮能瀬川の~」とある。しかも両歌とも音の「みや」にかかっている。枕詞。「三宅」は奈良県磯城郡三宅町とされる。「人の子ゆゑぞ」は「どこの娘に逢いに」という意味。「うちひさつ~通はすも我子」までは親の問いかけ。「蜷の腸(みなのわた)」は枕詞。全部で5例ある。「あざさ結ひ垂れ」のアザサはリンドウ科の多年生水草。髪飾りに使った。「黄楊(つげ)の小櫛」は常緑小高木の黄楊を材料にした櫛。櫛のほか印材、将棋の駒などに用いられる。「うらぐはし」は3234番長歌に出てきたばかりだが、「心麗しい」という意味。

  (口語訳)
 「三宅の原から裸足で直接地面を踏んで踏み貫き、夏草の間を難儀しながらやってくるのは、どこの娘に逢おうと思って通ってくるのかいお前。ごもっともごもっとも、母さんは知らないだろうし、ごもっともごもっとも、父さんも知らないでしょうが、黒髪に、木綿の紐でアザサを結んで垂らし、大和の黄楊の小櫛を刺して押さえた、霊妙な子、それが私の妻なのです」という歌である。

3296  父母に知らせぬ子ゆゑ三宅道の夏野の草をなづみ来るかも
      (父母尓 不令知子故 三宅道乃 夏野草乎 菜積来鴨)
 平明歌。
 「父母に知らせてない子なので、三宅の道の夏野の草の中を難儀してやって来るのです」という歌である。
 以上長反歌二首。

3297番長歌
  玉たすき 懸けぬ時なく 我が思ふ 妹にし逢はねば あかねさす 昼はしみらに ぬばたまの 夜はすがらに 寐も寝ずに 妹に恋ふるに 生けるすべなし
 (玉田次 不懸時無 吾念 妹西不會波 赤根刺 日者之弥良尓 烏玉之 夜者酢辛二 眠不睡尓 妹戀丹 生流為便無)

 「玉たすき」、「あかねさす」、「ぬばたまの」は共に枕詞。「あかねさす昼はしみらにぬばたまの夜はすがらに」は3270番長歌にそっくりそのまま使われている。終日終夜という意味である。

  (口語訳)
 「玉たすきを掛けるではないが、気に懸け続けている彼女に逢えないので、終日終夜寝るに寝られず、彼女を恋い焦がれているので生きた心地がしない」という歌である。

3298  よしゑやし死なむよ我妹生けりともかくのみこそ我が恋ひわたりなめ
      (縦恵八師 二々火四吾妹 生友 各鑿社吾 戀度七目)
 「よしゑやし」は「ええい、ままよ」という感嘆詞。「恋ひわたりなめ」は「恋い焦がれ続けるだけだろうから」という意味である。
 「ええい、もう。死んでしまうよ。私の彼女よ。生きていてもこんなふうに私は恋い焦がれ続けるだけだろうから」という歌である。
 以上長反歌二首。
           (2016年2月13日記、2019年3月22日)
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