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万葉集読解・・・245(3874~3884番歌)

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     万葉集読解・・・245(3874~3884番歌)
3874  射ゆ鹿を認ぐ川辺のにこ草の身の若かへにさ寝し子らはも
      (所射鹿乎 認河邊之 和草 身若可倍尓 佐宿之兒等波母)
 「射ゆ鹿を」は「射られた鹿を」という意味で、「認(つな)ぐ」は「跡を追っていって」という意味。「にこ草」は3370番歌に「あしがりの箱根の嶺ろのにこ草の花つ妻なれや紐解かず寝む」とある。「~にこ草の」が「花つ妻」を導く序歌に使われている。「やわらかい」ないし「初々しい」という意味。本歌も同様と見てよいだろう。「~にこ草の」は「身の若かへに」(にこ草のように若い)を導く序歌。
 「射られた鹿の跡を追っていったら川辺にやわらかいにこ草が生えていた。そのにこ草のような若くやわらかいあの子と寝たのが忘れられない」という歌である。

3875番長歌
   琴酒を 押垂小野ゆ 出づる水 ぬるくは出でず 寒水の 心もけやに 思ほゆる 音の少なき 道に逢はぬかも 少なきよ 道に逢はさば 色げせる 菅笠小笠 我がうなげる 玉の七つ緒 取り替へも 申さむものを 少なき道に 逢はぬかも
      (琴酒乎 押垂小野従 出流水 奴流久波不出 寒水之 心毛計夜尓 所念 音之少寸 道尓相奴鴨 少寸四 道尓相佐婆 伊呂雅世流 菅笠小笠 吾宇奈雅流 珠乃七條 取替毛 将申物乎 少寸 道尓相奴鴨)
 「琴酒を」は全く例がなく、枕詞(?)。「押垂(おしてる)小野ゆ」はどこの小野か未詳。「ぬるくは出でず」は次句の「寒水の」を修飾。が、「寒水の」はこのままで足りており、わざわざ「ぬるくは出でず」とする意味が分からない。酒が押し出されてくるという表現に合わせたか?。「心もけやに」は「すがすがしく」という意味。「色げせる」は「色美しい」。「我がうなげる」は「私が首にかけている」という意味。不思議な歌である。笠と玉
を交換する意味なり寓意が分からない。

  (口語訳)
 「うまい酒が押し出されて来るように、水が小野から流れ出てくる。が、ぬるくはなく、冷たく、心もすがすがしく思われる。人声は少なく、行く道に逢わないものでしょうか。人の少ない道でお逢いしたなら、色美しい菅笠小笠と私が首にかけている、七連の玉をお取り替え致しましょうに。人声少ないこの道でお逢いできないかしら」という歌である。
 先述したように、不思議な歌である。神社や村の祭りなどで舞いながら詠ったのだろうか?。

 頭注に「豊前國(とよのみちのくちのくに)の白水郎(あま)の歌一首」とある。
3876  豊国の企救の池なる菱の末を摘むとや妹がみ袖濡れけむ
      (豊國 企玖乃池奈流 菱之宇礼乎 採跡也妹之 御袖所沾計武)
 「豊国の企救(きく)の池」は「福岡県北九州市小倉にあった池」とされるが所在不詳。「菱の末(うれ)を」の菱はヒシ科の一年生水草。夏、堅果を結ぶ。食用。末(うれ)は先端部分。 「豊国の企救(きく)の池に浮かぶ菱の実を摘み取ろうとして。お嬢さんの袖は濡れただろうか」という歌である。
 
 頭注に「豊後國(とよのみちのしりのくに)の白水郎(あま)の歌一首」とある。
3877  紅に染めてし衣雨降りてにほひはすともうつろはめやも
      (紅尓 染而之衣 雨零而 尓保比波雖為 移波米也毛)
 豊後国は大分県を指す。「にほひはすとも」は「あざやかに染まることはあっても」という意味。
 「くれない(紅)に染まった着物、雨が降っていっそうあざやかに映えることはあっても、決して色あせるものですか」という歌である。

 頭注に「能登國(のとのくに)の歌三首」とある。
3878番長歌
  はしたての 熊来のやらに 新羅斧 落し入れ わし かけてかけて な泣かしそね 浮き出づるやと見む わし
      (堦楯 熊来乃夜良尓 新羅斧 堕入 和之 河毛悌河毛悌 勿鳴為曽弥 浮出流夜登将見 和之)
 「はしたての」は枕詞。「熊来(くまき)のやらに」の熊来は石川県旧熊木村。現在は七尾市に属す。「やら」は海底のこと。新羅斧は新羅製の斧。朝鮮半島製か新羅人製かこれだけでは不明。「わし」は囃(はや)し声。「ほら」とか「よいしょ」といった。 「かけてかけて」は「気になって」という意味。

  (口語訳)
 「熊来(くまき)の海底に新羅の斧を落としなすったか、よいこらしょ。気になってなって泣かんしゃんすな。浮いてくるか見てみようじゃないか、よいこらしょ」という歌である。
 左注に「右の歌一首傳へて云ふ。或愚人有り、斧を海底に堕とし、鐵が沈むのが解らず浮く筈のないことを知らなかった。そこでこの歌を作って覚らせようとした」とある。

3879番長歌
  はしたての 熊来酒屋に まぬらる奴 わし さすひ立て 率て来なましを まぬらる奴 わし
      (堦楯 熊来酒屋尓 真奴良留奴 和之 佐須比立 率而来奈麻之乎 真奴良留奴 和之)
 「まぬらる奴(やっこ)」は「どなられている奴さん」である。

  (口語訳)
 「熊来の酒屋にどなられている奴さん、よいこらしょ。誘い立たせて連れてきたい、どなられている奴さんを、よいこらしょ」という歌である。
 左注に「右は一首」とある。

3880番長歌
  鹿島嶺の 机の島の しただみを い拾ひ持ち来て 石もち つつき破り 早川に 洗ひ濯ぎ 辛塩に こごと揉み 高坏に盛り 机に立てて 母にあへつや 目豆児の刀自 父にあへつや 身女児の刀自
      (所聞多祢乃 机之嶋能 小螺乎 伊拾持来而 石以 都追伎破夫利 早川尓 洗濯 辛塩尓 古胡登毛美 高坏尓盛 机尓立而 母尓奉都也 目豆兒乃屓 父尓獻都也 身女兒乃屓)
 「鹿島嶺」は石川県鹿島郡のあるあたりか。「机(つくゑ)の島」は七尾湾に浮かぶどこかの島。「しただみ」は小さな巻き貝、2センチほど。「石もち」は「石をもって」という意味。「こごと揉(も)み」は「ぎゅうぎゅう揉んで」という意味。高坏(たかつき)はワイングラスのように台付きの土器だった。「あへつや」は「さしあげたかい」という意味。「目豆児(めづこ)の刀自(とじ)」と「身女児(みめこ)の刀自」は本来家事をする人、すなわち主婦を指す。が、「父母にさしあげたかい」とあるので幼女の手伝い姿に相違ない。目豆児(めづこ)は「愛づj児」で「可愛い児」。「身女児(みめこ)」の方だが、はっきりしない。女の子になりかかった児、つまりお姉さんということだろうか。

  (口語訳)
 「鹿島嶺の机の島のシタダミ(小さな巻き貝)を拾い集めてきて、石でもってたたき割り、早い川で洗いすすぐ。辛い塩でごしごし揉みしだき、高坏の器に盛って机島に立て、お母さんにさしあげたのかい、めんこい(可愛い)お嬢ちゃん。お姉ちゃんの方はお父様にさしあげたのかい」という歌である。

 頭注に「越中國(こしのみちのなかのくに)の歌四首」とある。越中國は現在の富山県。
3881  大野路は繁道森路繁くとも君し通はば道は広けむ
      (大野路者 繁道森径 之氣久登毛 君志通者 径者廣計武)
 大野は富山県砺波市福岡で、そこに大野という字があったという。
 「大野路は木立の多い森道だ。が、そんな道もあなた様が通っておいでになれば広がるでしょう」という歌である。

3882  渋谿の二上山に鷲ぞ子産むといふ翳にも君のみために鷲ぞ子産むといふ
      (澁谿乃 二上山尓 鷲曽子産跡云 指羽尓毛 君之御為尓 鷲曽子生跡云)
 本歌は五七七五七七の形の旋頭歌。二上山は通常、奈良県葛城市と大阪府南河内郡太子町に跨がる山を指す。が、ここは越中富山の歌。高岡市には富山湾に注ぐ小矢部川と庄川が流れている。万葉の頃は射水川が流れていて、おそらく小矢部川あたり。渋谷一帯とされ、今でも二上山がある。「翳(さしは)にも」は「翳にでもしてちょうだい」という意味である。翳は鳥の羽等でつくった高級なうちわ。
 「渋谷の二上山に鷲(さぎ)が子を産むという。翳(さしは)にでも使って下さい。あなた様の翳(さしは)にでも。鷲(さぎ)が子を産むという。」という歌である。

3883  伊夜彦おのれ神さび青雲のたなびく日すら小雨そほ降る [一云 あなに神さび]
      (伊夜彦 於能礼神佐備 青雲乃 田名引日須良 霂曽保零 [一云 安奈尓可武佐備])
 伊夜彦(いやひこ)山は、新潟県西蒲原郡弥彦村にある山。今は弥彦といい、山自体がご神体。「おのれ」は「自分自体」のこと。
 「伊夜彦山は自分自身がご神体でいらっしゃるから、神々しく青雲(晴れ間がち)のたなびく日ですら小雨がそぼ降ります」という歌である。
 異伝歌は「おのれ神さび」が「あなに神さび」になっていて、歌意はほぼ同じ。

3884  伊夜彦神の麓に今日らもか鹿の伏すらむ皮衣着て角つきながら
      (伊夜彦 神乃布本 今日良毛加 鹿乃伏良武 皮服著而 角附奈我良)
 本歌だけは五七五七七七体の歌。結句の一句(七音)が多い。仏足石歌体と名付けて区別している。が、本歌一例だけ。長歌に入れておけばよいと私などは思っている。思うに第五句の「皮衣着て」は妙で不要に思われる。異伝歌が誤って入ったという見方もできよう。
伊夜彦は前歌参照。麓は「伊夜彦神社のことで、そこに鹿がやってくるのを詠っているようだ。
 「伊夜彦山の麓の神社に今日もまた鹿がやってきて伏している。皮の着物を着、角を立てたまま」という歌である。
           (2016年8月30日記、2019年4月6日)
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