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万葉集読解・・・247(3890~3906番歌)

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     万葉集読解・・・247(3890~3906番歌)
 頭注に「天平二年(730年)冬十一月大宰帥(太宰府長官)大伴旅人は大納言に任ぜられ(大宰帥兼任のまま)、上京。別に従者等海路で入京。この時各自旅をいたんで作った歌十首」とある。3890~3899番歌。
3890  我が背子を我が松原よ見わたせば海人娘子ども玉藻刈る見ゆ
      (和我勢兒乎 安我松原欲 見度婆 安麻乎等女登母 多麻藻可流美由)
 通常「我が背子」は女性から呼びかける親しい男性に使われることが多い。が、本歌の場合は「我が友を」の感覚。待つにかけた序歌。「松原よ」のよは「より」。
 「我が友を待つという、その松原より見わたすと、海人(あま)の娘子(おとめ)たちが藻を刈り取っているのが見える」という歌である。
 左注に「右の一首は三野連石守(みののむらじいそもり)の作」とある。

3891  荒津の海潮干潮満ち時はあれどいづれの時か我が恋ひざらむ
      (荒津乃海 之保悲思保美知 時波安礼登 伊頭礼乃時加 吾孤悲射良牟)
 「荒津の海」は一般名詞で荒れた海という意味。「我が恋ひざらむ」は「故郷が恋しい」というのが普通だが、恋人と取れないこともない。
 「荒れた海には潮が引いたり満ちたりする一定の時がある。が、私の故郷への思いは時無しだ」という歌である。

3892  磯ごとに海人の釣舟泊てにけり我が船泊てむ磯の知らなく
      (伊蘇其登尓 海夫乃<釣>船 波氐尓家里 我船波氐牟 伊蘇乃之良奈久)
 平明歌。「自分の乗る舟はどこの磯に泊まっているのだろう」が歌意。
 「どこの磯にも海人の釣舟が泊まっている。私の乗るこの船はどこに停泊することだろう」という歌である。

3893  昨日こそ船出はせしか鯨魚取り比治奇の灘を今日見つるかも
      (昨日許曽 敷奈悌婆勢之可 伊佐魚取 比治奇乃奈太乎 今日見都流香母)
 「昨日こそ船出はせしか」は「昨日だったのか船出したのは」という意味。「鯨魚(いさな)取り」は枕詞。比治奇の灘は山口県の響灘のことというが、不詳。
 「昨日出航したばかりだと思っていたのに、もう比治奇の灘にさしかかってその灘を見ているのだな」という歌である。

3894  淡路島門渡る船の楫間にも我れは忘れず家をしぞ思ふ
      (淡路嶋 刀和多流船乃 可治麻尓毛 吾波和須礼受 伊弊乎之曽於毛布)
 「楫間(かぢま)にも」であるが、瀬戸(海峡)にさしかかっているので、梶を漕ぐのがせわしない。つまり、「せわしなく梶を漕ぐ間も」という意味である。
 「淡路島の瀬戸にさしかかって梶を漕ぐ間が忙しくなってきた。そのせわしない間も私は家のことが頭をよぎる」という歌である。
 梶を漕ぐのが忙しいからこそ故郷が頭をよぎる。秀歌といってよい。

3895  たまはやす武庫の渡りに天伝ふ日の暮れ行けば家をしぞ思ふ
      (多麻波夜須 武庫能和多里尓 天傳 日能久礼由氣婆 家乎之曽於毛布)
 「たまはやす」は本歌しか例がなく、枕詞(?)。「武庫の渡りに」はどこの渡し場か不詳。
 「武庫の渡し場に天空の夕日が落ちてゆくのを目にすると家のことが思われる」という歌である。落日を感情を抑えて静かに詠っている所がすばらしい。

3896  家にてもたゆたふ命波の上に思ひし居れば奥処知らずも [一云 浮きてし居れば]
      (家尓底母 多由多敷命 浪乃宇倍尓 思之乎礼波 於久香之良受母 [一云 宇伎氐之乎礼八])
 「奥処(おくか)知らずも」は3150番歌に「霞立つ春の長日を奥処なく知らぬ山道を恋ひつつか来む」とある例のように「果てもしれない」という意味である。
 「家にいても揺れ動くわが命、波の上に揺られて思うに、これから先が不安でならない」という歌である。
 異伝歌は「思ひし居れば」の部分が「浮きてし居れば」となっている。歌意はほとんど変わらない。

3897  大海の奥処も知らず行く我れをいつ来まさむと問ひし子らはも
      (大海乃 於久可母之良受 由久和礼乎 何時伎麻佐武等 問之兒<良>波母)
 「奥処(おくか)」は前歌参照。「子らはも」のらは親愛の呼称。
 「大海の行く果てもしれない海路に出かけるのに、いつお帰りになりますかと問いかけた、いとしい彼女は」という歌である。

3898  大船の上にし居れば天雲のたどきも知らず歌乞ふ我が世(背?)
      (大船乃 宇倍尓之居婆 安麻久毛乃 多度伎毛思良受 歌乞和我世)
 「たどき」は「手段」とか「よるべない」という意味。結句「歌乞和我世」(原文)は古来難訓。問題は二つある。「歌乞」は「歌を乞う」だが「誰に歌を乞う」のか分からない。「和我世」は「わが背」が定訓となっているが、海路の途中の歌なので、女性の歌ではない。さりとて「わが友」と解するのもしっくりこない。「和我世」は原文どおり「わが世」ではなかろうか。前者の「歌乞」はそのまま「歌乞ふ」と訓じればいい。「歌乞ふわが世」、これが結句。問題はこれで歌意が通るか否かだ。全体を口語訳してみよう。
 「大船の上にいると、流れゆく雲のようによるべも分からず、こうして歌でも詠わないとたまらない」という歌である。
 この読解でいいと思うが、判定は読者に委ねたい。

3899  海人娘子漁り焚く火のおぼほしく都努の松原思ほゆるかも
      (海未通女 伊射里多久火能 於煩保之久 都努乃松原 於母保由流可<問>)
 「おぼほしく」は「ぼんやりと」という意味。「都努の松原」は兵庫県西宮市松原町(津門郷(つとごう))のあたりかという。
 「海人娘子(あまをとめ)が焚く漁の火がぼんやりと見えるように、都努の松原がぼんやりと思い出される」という歌である。
 左注に「右九首作者不明」とある。十首の内の最初の歌は既述したように三野連石守(みののむらじいそもり)作。

 頭注に「十年七月七日夜空を仰いで思いを述べた歌」とある。十年は天平十年(738年)。
3900  織女し船乗りすらしまそ鏡清き月夜に雲立ちわたる
      (多奈波多之 船乗須良之 麻蘇鏡 吉欲伎月夜尓 雲起和多流)
 織女はご存じ織女星。こと座のベガ。七夕伝説を詠んだ歌。「織女し」は強意のし。
 「織り姫は今船に乗り込むようだ。美しい鏡のように、澄み切った月夜。今しも雲が流れてゆく」という歌である。
 左注に「大伴宿祢家持(おほとものすくねやかもち)作」とある。
 
 頭注に「大宰府の大伴旅人邸での梅花を愛でる新しい歌六首」とある。
3901  み冬継ぎ春は来たれど梅の花君にしあらねば招く人もなし
      (民布由都藝 芳流波吉多礼登 烏梅能芳奈 君尓之安良祢婆 遠<久>人毛奈之)
 「み冬継ぎ」は「寒い冬に続いて」という意味。「君にし」は強意のし。
 「寒い冬に続いて春がやってきて梅の花の時節になりました。私はあなた様をお招きしたく、ほかにお招きしたい人はいません」という歌である。
 
3902  梅の花み山としみにありともやかくのみ君は見れど飽かにせむ
      (烏梅乃花 美夜万等之美尓 安里登母也 如此乃未君波 見礼登安可尓勢牟)
 「み山としみに」は「深い山まで一杯になって」という意味である。
 「梅の花、たとえ山中一杯繁っていても、この梅のようにあなたが見入って飽かない梅はないでしょうね」という歌である。

3903  春雨に萌えし柳か梅の花ともに後れぬ常の物かも
      (春雨尓 毛延之楊奈疑可 烏梅乃花 登母尓於久礼奴 常乃物能香聞)
 「常の物かも」は「例年の光景でしょうか」という意味である。
 「春雨を受けて芽吹いてきた柳、あるいは春雨に関係なく、梅の花の開花期に共に後れないように萌えだした例年の風物詩なのでしょうか」という歌である。

3904  梅の花いつは折らじといとはねど咲きの盛りは惜しきものなり
      (宇梅能花 伊都波乎良自等 伊登波祢登 佐吉乃盛波 乎思吉物奈利)
 「いとはねど」は「やぶさかではないが」という意味で、結句の「惜しきものなり」とほぼ同意。
 「梅の花、いつといって折るのが惜しいわけではないが、でもやはり花の盛りは折るのが惜しい」という歌である。

3905  遊ぶ内の楽しき庭に梅柳折りかざしてば思ひなみかも
      (遊内乃 多努之吉庭尓 梅柳 乎理加謝思底婆 意毛比奈美可毛)
 「思ひなみかも」は「心残りがないのかな」という意味。祭りの後にふっとよぎる寂しさを感じさせる句である。
 「みんなでわいわい騒ぐ楽しい庭遊び、梅や柳を折り、頭にかざして遊んだのち、何の心残りも訪れないのだろうか」という歌である。

3906  御園生の百木の梅の散る花し天に飛び上がり雪と降りけむ
      (御苑布能 百木乃宇梅乃 落花之 安米尓登妣安我里 雪等敷里家牟)
 御園は主催者大伴旅人の庭園。「百木(ももき)の梅の」は「たくさんの梅の木の」という意味。「散る花し」は強意のし。
 「御園に生えるたくさんの梅の木が散る無数の花びら、空に舞い上がって雪となって降ってきたのだろうか」という歌である。
 左注に「右は十二年十二月九日大伴宿祢書持(かきもち)作」とある。十ニ年は天平十二年(740年)。書持は大伴家持の弟。
           (2016年9月6日記、2019年4月6日)
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