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万葉集読解・・・249(3922~3939番歌)

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     万葉集読解・・・249(3922~3939番歌)
 頭注に大略こうある。「天平十八年正月大雪が降った。左大臣橘卿(たちばなのまへつきみ)が諸王に声をかけて天皇の御在所(中宮西院)に参って雪を掃き清めた。天皇は左大臣らを大殿に招き、宴会をなさった。そしてこの雪に関して各々歌を詠えとおっしゃった。
 そこで、左大臣橘卿が詔に応えて詠った」。天平十八年は746年、橘卿は橘諸兄。
3922  降る雪の白髪までに大君に仕へまつれば貴くもあるか
      (布流由吉乃 之路髪麻泥尓 大皇尓 都可倍麻都礼婆 貴久母安流香)
 「貴くもあるか」は「貴いことでしょう」という意味である。
 「降る雪のように真っ白な白髪になるまで大君にお仕えさせていただき、恐れ多く尊いことでございます」という歌である。
 
 頭注に「紀朝臣清人(きのあそみきよひと)が詔に応えた一首」とある。
3923  天の下すでに覆ひて降る雪の光りを見れば貴くもあるか
      (天下 須泥尓於保比氐 布流雪乃 比加里乎見礼婆 多敷刀久母安流香)
 平明歌。
 「天の下をすでに覆い尽くして降り積もった雪のまばゆいばかりの光を見ると、なんと貴いことでしょう」という歌である。
 
 頭注に「紀朝臣男梶(きのあそみをかぢ)が詔に応えた一首」とある。
3924  山の狭そことも見えず一昨日も昨日も今日も雪の降れれば
      (山乃可比 曽許登母見延受 乎登都日毛 昨日毛今日毛 由吉能布礼々<婆>)
 「山の狭(かひ)」は谷間のこと。
 「どこが山の谷間とはわからないほど、一昨日も昨日も今日も雪が降り続いている」という歌である。

  頭注に「葛井連諸會(ふぢゐのむらじもろあひ)が詔に応えた一首」とある。
3925  新しき年の初めに豊の年しるすとならし雪の降れるは
      (新 年乃婆自米尓 豊乃登之 思流須登奈良思 雪能敷礼流波)
 「豊(とよ)の年」は「実り多い年」のこと。「しるすとならし」は「告げる印に相違ない」という意味。
 「新しい年の初めに実り多い年になるだろうと告げる印に相違ない。この降り続く雪は」という歌である。
 
  頭注に「大伴宿祢家持(おほとものすくねやかもち)が詔に応えた一首」とある。
3926  大宮の内にも外にも光るまで降れる白雪見れど飽かぬかも
      (大宮<能> 宇知尓毛刀尓毛 比賀流麻泥 零<流>白雪 見礼杼安可奴香聞)
 平明歌。
 「ここ大宮の内も外側も光輝くように降り続く白雪、見ても見ても飽きることがない」という歌である。
 左注にこうある(人名の読みは省略)。
 「藤原豊成朝臣 巨勢奈弖麻呂朝臣 大伴牛養宿祢 藤原仲麻呂朝臣 三原王 智奴王 船王 邑知王 小田王 林王 穂積朝臣老 小田朝臣諸人 高橋朝臣國足 太朝臣徳太理 高丘連河内 秦忌寸朝元 楢原造東人 等これらの王や卿は詔に応じて順次歌を奏上した。が、この時書き記さなかったので、歌はもれてしまった。ただ、秦忌寸朝元については、左大臣橘卿が「歌が出来なければ麝香(じゃこう)でよい」と戯れにおしゃったので、奏上しかかった歌をやめてしまった」

 頭注に大略こうある。「大伴家持、天平十八年閏七月越中國守に任命。七月着任。坂上郎女、家持に贈った歌二首」。越中國は富山県。坂上郎女(さかのうへのいらつめ)は大伴家持の叔母。
3927  草枕旅行く君を幸くあれと斎瓮据ゑつ我が床の辺に
      (久佐麻久良 多妣由久吉美乎 佐伎久安礼等 伊波比倍須恵都 安我登許能敝尓)
 「草枕」は枕詞。「斎瓮(いはひべ)」は「神事に使う器」。
 「任地に赴くあなたに幸いあれと祈るために、斎瓮(いわいべ)を据えつけています。私の床の辺に」という歌である。

3928  今のごと恋しく君が思ほえばいかにかもせむするすべのなさ
      (伊麻能<其>等 古非之久伎美我 於毛保要婆 伊可尓加母世牟 須流須邊乃奈左)
 「今のごと」は「今のように」ということ。「いかにかもせむ」は「どうしたらいいのでしょう」という意味。
 「今のようにこんなに恋しくあなたのことが思えるのに、これからどうしたらいいのでしょう。なすすべがありません」という歌である。

 頭注に「更に坂上郎女が越中國の家持に贈った歌二首」とある。
3929  旅に去にし君しも継ぎて夢に見ゆ我が片恋の繁ければかも
      (多妣尓伊仁思 吉美志毛都藝? 伊米尓美由 安我加多孤悲乃 思氣家礼婆可聞)
 「君しも継ぎて」のしもは強意の「しも」。「継ぎて」は「あなたのことが次々に(ひっきりなしに)」という意味。
 「旅に出てしまったあなたのことが次々に夢に出てきます。私の片思いが激しいせいでしょうか」という歌である。

3930  道の中国つ御神は旅行きもし知らぬ君を恵みたまはな
      (美知乃奈加 久尓都美可未波 多妣由伎母 之思良奴伎美乎 米具美多麻波奈)
 「道の中国」は越中国、富山県。「国つ御神」は国つ神、国土神のこと。「恵みたまはな」は「お守り下さい」という意味。
 「越中の神様、道行き初めてのこの人をどうかよろしくお守り下さい」という歌である。

 頭注に「平群氏女郎(へぐりうじのいらつめ)が越中守大伴家持に贈った歌十二首」とある。3931~3942番歌。
3931  君により我が名はすでに龍田山絶えたる恋の繁きころかも
      (吉美尓餘里 吾名波須泥尓 多都多山 絶多流孤悲乃 之氣吉許呂可母)
 「龍田山」は奈良県生駒郡平群町近辺の山とされる。龍田川という名が残っている。が、本歌では掛詞として使われている。
 「あなたとの浮き名はすでに龍田山(立ってしまいました)。絶えてしまった恋がしきりにつのるこのごろです」という歌である。

3932  須磨人の海辺常去らず焼く塩の辛き恋をも我れはするかも
      (須麻比等乃 海邊都祢佐良受 夜久之保能 可良吉戀乎母 安礼波須流香物)
 須磨は神戸市南西部の海岸。「常去らず焼く塩」は「いつも海岸で焼く塩」のこと。
 「須磨の海人(あま)がいつも海岸で焼く塩のような、そんな辛い恋を私はしている」という歌である。

3933  ありさりて後も逢はむと思へこそ露の命も継ぎつつ渡れ
      (阿里佐利底 能知毛相牟等 於母倍許曽 都由能伊乃知母 都藝都追和多礼)
 「ありさりて」は、他に2例しかないが、そのひとつ3070番歌に「木綿畳田上山のさな葛ありさりてしも今ならずとも」とある。「このまま」という意味である。
 「このままでいて、後も逢おうと思うからこそ、露のようなはかないこの命を生きながらえています」という歌である。

3934  なかなかに死なば安けむ君が目を見ず久ならばすべなかるべし
      (奈加奈可尓 之奈婆夜須家牟 伎美我目乎 美受比佐奈良婆 須敝奈可流倍思)
 「なかなかに」は「なまじっか」という意味。
 「なまじっか死んでしまえば心安らかでしょう。あなたにお逢いできないまま久しくなれば、この私はどうしたらいいのでしょう」という歌である。

3935  隠り沼の下ゆ恋ひあまり白波のいちしろく出でぬ人の知るべく
      (許母利奴能 之多由孤悲安麻里 志良奈美能 伊知之路久伊泥奴 比登乃師流倍久)
 「恋ひあまり」は「恋心があまって」すなわち「思わず」という意味である。
 「隠り沼の下からのように密かに恋心を抱いていましたが、思わず、白波のようにはっきり面に出てしまいました。人に気づかれるほどに」という歌である。

3936  草枕旅にしばしばかくのみや君を遣りつつ我が恋ひ居らむ
      (久佐麻久良 多妣尓之婆々々 可久能未也 伎美乎夜利都追 安我孤悲乎良牟)
 「草枕」は枕詞。「君を遣(や)りつつ」は「あなたを送り出しては」という意味である。 「旅だっていくあなたを、こんなふうにしばしば送り出しては、恋い焦がれていなければならないのでしょうか」という歌である。

3937  草枕旅去にし君が帰り来む月日を知らむすべの知らなく
      (草枕 多妣伊尓之伎美我 可敝里許牟 月日乎之良牟 須邊能思良難久)
 「草枕」は枕詞。平明歌。
 「旅だってしまったあなたがお帰りになる月日を知りようもない私です」という歌である。

3938  かくのみや我が恋ひ居らむぬばたまの夜の紐だに解き放けずして
      (可久能未也 安我故非乎浪牟 奴婆多麻能 欲流乃比毛太尓 登吉佐氣受之氐)
 「ぬばたまの」はお馴染みの枕詞。平明歌。
 「こんなふうにあなたを恋い焦がれていなければならないのでしょうか。夜の着物の紐も解き放たずに」という歌である。

3939  里近く君がなりなば恋ひめやともとな思ひし我れぞ悔しき
      (佐刀知加久 伎美我奈里那婆 古非米也等 母登奈於毛比此 安連曽久夜思伎)
 「君がなりなば」は「あなたが生活していらっしゃれば」。「もとな」は「心もとない」ないし「しきりに」という意味。「里近くにあなたが生活していらっしゃれば、(それがあたりまえで)恋しいなどと思わなかったでしょうに、今ではしきりに恋しい、そんな私が悔しくてなりません」という歌である。
           (2016年9月14日記、2019年4月6日)
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