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Channel: 古代史の道
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矢車草

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 二月下旬頃の話である。近在の路傍に風ぐるまを思わせる花が開花しているのに出会った。青紫色をした美しい花である。私は数枚カメラに収め、バスで英会話クラブの例会に向かった。厳冬期に開花している花は希有なので強く印象に残った。何という花だろうと気に懸かった。ある日のことである。寿司やに入って、寿司が出来上がってくるまでデジカメにまだ残っていた青紫色の花を見ていたら、たまたま背後を通りかかった女子従業員が「あ、矢車草だよね」と声を発した。
 私の脳裏に電撃が走り、遠い遠い記憶が蘇ってきた。矢車草。が、矢車草は見た記憶がなく、なのに名前だけは頭の隅っこのどこかに残っていた。どのような機会にどのような形で記憶に焼き付いたのか不思議といえば不思議だ。しかも、大変ロマンチックな響きをもって記憶に焼き付いていた。
 「ああ、この花、矢車草ってんだね」
 「そうそう。早春から秋口まで長く咲いてるよ」
 彼女の簡単な説明を聞いて私は心から「ありがとう」と言った。「そうか、あ、そうなんだ」私はうれしくなって内心に笑みが広がるのを覚えた。なるほど、形が風車や矢車に似ている。
   矢車の形に似たる花なりしうむうむうむとうなづいて聞く
   すぐ近く郵便局あり矢車の形の花過ぎ手紙差し出す
 うまく説明できないが、矢車草は、岡山市宇野に住んでいた遠い遠い文通相手と毎週のように手紙でやりとりしていた、遠い昭和の時代を思い起こさせた。すなわち日常生活の日本の原風景を見る思いがしたのである。パソコンや携帯でのやりとりが当たり前になった現在、かってはのんびりと文通でやりとりしていた時代があったことを忘れていた。
            (2015年3月22日)
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