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万葉集読解・・・296(4488~4501歌)

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     万葉集読解・・・296(4488~4501歌)
 頭注に「十二月十八日、大監物三形王(みかたのおほきみ)の宅で催された宴の時の歌三首」とある。十二月十八日は天平宝字元年(757年)。大監物(だいけんもつ)は中務省の物品出納の鍵を司る監物の長官。
4488  み雪降る冬は今日のみ鴬の鳴かむ春へは明日にしあるらし
      (三雪布流 布由波祁布能未 鴬乃 奈加牟春敝波 安須尓之安流良之)
 「明日にしあるらし」は「明日であるらしい」と単純に解しては歌意に趣がなくなる。「明日にし」と強意のしもある。
 「雪が降る冬は今日でおしまい。ウグイスが鳴く春は明日にでもやって来よう」という歌である。
 左注に「右は主人三形王の歌」とある。

4489  うち靡く春を近みかぬばたまの今夜の月夜霞みたるらむ
      (宇知奈婢久 波流乎知可美加 奴婆玉乃 己与比能都久欲 可須美多流良牟)
 「うち靡く」は19例に達し、「岩波大系本」は枕詞としている。が、87番歌のようにそのままの意味で通じるものもあり、枕詞(?)としておこう。「ぬばたまの」はお馴染みの枕詞。
 「ものみなうち靡く春が近いからか今夜の月夜は霞がかっている」という歌である。
 左注に「右は大蔵大輔甘南備伊香真人(かむなびのいかごのまひと)の歌」とある。大蔵大輔(だいふ)は大蔵省次官。

4490  あらたまの年行き返り春立たばまづ我が宿に鴬は鳴け
      (安良多末能 等之由伎我敝理 波流多々婆 末豆和我夜度尓 宇具比須波奈家)
 「あらたまの」はお馴染みの枕詞。「我が宿に」は「我が家の庭に」である。
 「年があらたまって春がやってきたら、まず最初に我が家の庭に来てウグイスよ鳴け」という歌である。
 左注に「右は右中辨大伴宿祢家持の歌」とある。弁官は太政官に直属し、各省に上意下達を行った。左右の弁官が置かれていた。右中弁は次官。

4491  大き海の水底深く思ひつつ裳引き平しし菅原の里
      (於保吉宇美能 美奈曽己布可久 於毛比都々 毛婢伎奈良之思 須我波良能佐刀)
 「裳引き平(なら)しし」の最後のしは過去を示す。従って「裳裾を引いて歩いたものでした」という意味である。「菅原(すがはら)の里」は奈良市平城宮跡、大和西大寺の近辺。
 「大海の海底のように深く思いをこめながら、裳裾を引いて廷内を歩いたものでした」という歌である。
 左注に「右は藤原宿奈麻呂(すくなまろ)朝臣の妻だった石川女郎(いしかはのいらつめ)が愛薄くなって離別され、悲しみ恨んで作った歌、年月未詳」とある。

 頭注に「廿三日、治部少輔大原今城真人(おほはらのいまきのまひと)の宅で催された宴の時の歌」とある。廿三日は天平宝字元年(757年)十二月廿三日。治部少輔は治部省次官。治部省は高級官僚の継嗣、婚姻、外交などを司る。
4492  月数めばいまだ冬なりしかすがに霞たなびく春立ちぬとか
      (都奇餘米婆 伊麻太冬奈里 之可須我尓 霞多奈婢久 波流多知奴等可)
 「月数(よ)めば」は「月を数えると」すなわち「暦の上では」、「しかすがに」は「そうは言うものの」という意味。
 「暦の上では依然として冬なのだが、そうは言うものの霞がたなびき、やはり春がやってきたのだろうか」という歌である。
 左注に「右は右中辨大伴宿祢家持の歌」とある。

 頭注に「二年春正月三日、侍従、竪子(じゅし=未冠の奉仕者)、王臣等を召し、内裏の東屋の垣下に侍らせられた。そして玉菷(本来は箒を指すが、ここでは御酒)を賜り、宴となった。時に、内相藤原朝臣(仲麻呂)、天皇の勅をおしいただいておっしゃった。「諸王、高官の皆々、能力に応じて心のままに歌を作り、詩を述べよ」と・・・。そこで、各々歌と詩を述べた。この時の歌と詩はいまだ得られていない」とある。内相は紫微中台の長官(行政権一切を掌握)。二年春は天平宝字二年(758年)。筆者注(そこで、実際の歌や詩は未収録)。

4493  初春の初子の今日の玉箒手に取るからに揺らく玉の緒
      (始春乃 波都祢乃家布能 多麻婆波伎 手尓等流可良尓 由良久多麻能乎)
 「初春の初子(はつね)」は「新春になって初めての子の日」(当時、年だけでなく、日も干支が使われていた)。玉箒は本来の箒の意味で、玉を飾った箒。紐(緒)でつないでいたらしい。掃き清める。
 「新春になって初めての子の日の今日、玉箒を手にとると玉の緒が揺らいだ」という歌である。
 左注に「右は右中辨大伴宿祢家持の歌。但し、大蔵省の政務によって奏上出来なかった」とある。右中辨は4490番歌左注参照。大蔵省の事務が多忙だったということだが、天皇への歌の奏上は大蔵省が行っていたのだろうか。不思議な左注である。

4494  水鳥の鴨の羽の色の青馬を今日見る人は限りなしといふ
      (水鳥乃 可毛能羽能伊呂乃 青馬乎 家布美流比等波 可藝利奈之等伊布)
 「限りなしといふ」は「長寿を得るという」という意味である。
 「水鳥である鴨の羽の色をした青馬(白馬か)を今日見る人は長寿を得るという」という歌である。
 左注に「右は、七日の宴に出席する時のために右中辨大伴宿祢家持があらかじめ作った歌。が、前日の六日に仁王會の行事のために緒王や高官を召して内裏で宴が催されたため、奏上出来なかった」とある。七日は天平宝字二年(758年)正月七日。

 頭注に「六日、内庭(内裏の庭)に假の樹木を植えて囲いとし、宴を催された時の歌」とある。六日は天平宝字二年(758年)正月六日。
4495  うち靡く春ともしるく鴬は植木の木間を鳴き渡らなむ
      (打奈婢久 波流等毛之流久 宇具比須波 宇恵木之樹間乎 奈<枳>和多良奈牟)
 「うち靡く」は枕詞(?)。「しるく」は「著しく」で、「はっきりと」という意味。
 「ものみななびく春だよと、はっきりと告げるために、ウグイスが植木の木間にやってきて、鳴き渡っていってほしい」という歌である。
 左注に「右は右中辨大伴宿祢家持の歌。奏上しないまま」とある。右中辨は4490番歌左注参照。

 頭注に「二月、式部大輔中臣清麻呂朝臣(なかとみのきよまろのあそみ)の宅で催された宴の時の歌十五首」とある。式部大輔(だいふ)は式部省次官。式部省は、国家の礼儀、儀式、人事、養成等を司る。
4496  恨めしく君はもあるか宿の梅の散り過ぐるまで見しめずありける
      (宇良賣之久 伎美波母安流加 夜度乃烏梅<能> 知利須具流麻O 美之米受安利家流)
 「君はもあるか」は「あなた様であることよ」という強調表現。「宿の梅」は「庭の梅」。主人清麻呂に呼びかけた歌。
 「あなたは何と恨めしいことをなさるお方。家の庭の梅が散りすぎるまで、見せて下さらないんですから」という歌である。
 左注に「右は治部少輔大原今城真人(いまきのまひと)の歌」とある。治部少輔(せうふ)は治部省次官。

4497  見むと言はば否と言はめや梅の花散り過ぐるまで君が来まさぬ
      (美牟等伊波婆 伊奈等伊波米也 宇梅乃波奈 知利須具流麻弖 伎美我伎麻左奴)
 前歌に答えた歌。
 「見たいとおっしゃれば否と言う筈はありません。梅の花が散りすぎるまであなたが来なかっただけじゃありませんか」という歌である。
 左注に「右は主人中臣清麻呂朝臣の歌」とある。

4498  はしきよし今日の主人は磯松の常にいまさね今も見るごと
      (波之伎余之 家布能安路自波 伊蘇麻都能 都祢尓伊麻佐祢 伊麻母美流其等)
 「はしきよし」は「慕わしい」、「好ましい」、「ご立派な」等を意味する用語。
 「慕わしいお方よ、今日のご主人は。磯に生える松のようにいつも変わらずいて下さい。今見ているあなたのまま」という歌である。
 左注に「右は右中辨大伴宿祢家持の歌」とある。

4499  我が背子しかくし聞こさば天地の神を祈ひ祷み長くとぞ思ふ
      (和我勢故之 可久志伎許散婆 安米都知乃 可未乎許比能美 奈我久等曽於毛布)
 「我が背子し」は強意のし。「聞こさば」は2805番歌に一例だけあって、「伊勢の海ゆ鳴き来る鶴の音どろも君が聞こさば我れ恋ひめやも」とある。敬語で「お聞かせ下されば」である。「祈(こ)ひ祷(の)み」は「乞い願って」という意味である。
 「あなた(家持)がそうおっしゃって下さるのでしたら、天地の神々に乞い願って長生きしようと思います」という歌である。
 左注に「右は主人中臣清麻呂朝臣の歌」とある。

4500  梅の花香をかぐはしみ遠けども心もしのに君をしぞ思ふ
      (宇梅能波奈 香乎加具波之美 等保家杼母 己許呂母之努尓 伎美乎之曽於毛布)
 「かぐはしみ」は「~ので」のみ。「心もしのに」は「心から一心に」という意味。
 「梅の花の香りが芳しいので、遠くても心から一心にあなた様のことをお慕いしています」という歌である。
 左注に「右は治部大輔市原王の歌」とある。治部大輔(たいふ)は治部省次官。

4501  八千種の花は移ろふ常盤なる松のさ枝を我れは結ばな
      (夜知久佐能 波奈波宇都呂布 等伎波奈流 麻都能左要太乎 和礼波牟須婆奈)
 「八千種(やちぐさ)の」は「さまざまの」という意味。
 「さまざまの花は時と共に衰えていきますが、常緑の松の木の枝を結んで長寿を願いましょう」という歌である。
 左注に「右は右中辨大伴宿祢家持の歌」とある。
           (2017年5月5日記)
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