アッシー君

日々つれづれ－１０トップへ
　今でも使われているか否か覚束ないが、私の若い頃、「アッシー君」という言葉が流行ったことがある。用事がある時だけ連絡してきて彼女にタクシー代わりに使われる男のことである。むろん、事柄の性格上、揶揄を含んだ用語である。が、女性にはあまり縁のない私などは、会話の相手に合わせて揶揄を込めた物言いをしながら、他方、内心では「そんな彼女でもいてくれるといいな」などと羨ましがったこともある。
　さて、昨日、私はそのアッシー君を務めた。東区黒門町の医院まで彼女を送り届け、小一時間待機した後、彼女の指定の場所まで帰還したのである。待機中、時間があったので、近くの黒門町公園を散歩した。先日訪れた建中寺の近くの公園である。
　黒門町公園はかなりの大樹が居並び、チリひとつ見あたらない、清潔な感じのするクリアーな公園だ。写真の左下に豆粒のような人影が写っている。比べていただくと分かるが、植えられているのはかなりの大樹である。
　　　深みゆく秋の気配に並び立つ大樹は空に大手広げし
　　　雲白く両手伸ばせばどこまでも大樹の上を翔る心地す
　かくて、無事アッシー君を務め終えたわけだが、晴れ晴れとさわやかな気分に満たされた。相手が若い女性だったせいもあるのだろうが、アッシー君、必ずしも悪い気はしなかった。まして揶揄すべきピエロなどとはいささかも感じなかった。たんに便利だからというだけで、どんな相手でも女性がわざわざコンタクトするとは思われない。ならば、女性も男性も、一段と高見に立ってアッシー君を蔑視する手はあるまい。たとえ火遊びに終わろうと、スリルめいたいっときが味わえたのなら、それはそれでよしとしなければなるまい。澄み切った秋空のもと、清潔な公園に居並ぶ大樹を心ゆくまで眺められただけでも、私にとっては素晴らしいひとときとなった。
　　　　　　　　　　　　　　（２０１４年１０月２８日）