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万葉集読解・・・124(1827~1848番歌)

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     万葉集読解・・・124(1827~1848番歌)
1827  春日なる羽がひの山ゆ佐保の内へ鳴き行くなるは誰れ呼子鳥
      (春日有 羽買之山従  狭帆之内敝 鳴徃成者 孰喚子鳥)
 「春日なる羽がひの山ゆ」は「春日山の羽がひの山から」という意味だが、羽がひの山は具体的にはどの峰を指すのか不詳。春日山は奈良市に聳える山。また、佐保は大伴氏の根拠地のひとつで、大伴坂上郎女(おおとものさかのうへのいらつめ)が居を構えていた所。「春日山の羽がひの山から佐保の里へ鳴きながら飛んでいくのは誰を呼ぶ呼子鳥だろう」という歌である。

1828  答へぬにな呼び響めそ呼子鳥佐保の山辺を上り下りに
      (不答尓 勿喚動曽 喚子鳥 佐保乃山邊乎 上下二)
 「答へぬに」は「誰も答える者がいないのに」という意味。「な呼び響(とよ)めそ」は典型的な「な~そ」の禁止形。「誰も答える者がいないのにそんなに鳴き響かせないでおくれ呼子鳥よ。佐保の山辺をかけ上がったり下がったりしながら」という歌である。

1829  梓弓春山近く家居らば継ぎて聞くらむ鴬の声
      (梓弓 春山近 家居之 續而聞良牟 鴬之音)
 「梓弓(あづさゆみ)」は時々出てくる枕詞。「継ぎて」は「ひっきりなしに」。「春になると山近くに住んでいらっしゃるあなたは、ひっきりなしに鳴くウグイスの声をお聞きでしょうね」という歌である。

1830  うち靡く春さり来れば小竹の末に尾羽打ち触れて鴬鳴くも
      (打靡 春去来者 小竹之末丹 尾羽打觸而 鴬鳴毛)
 「うち靡く」は1422番歌や1819番歌の際に詳述したように、靡く本来の意味に使われている例が多い。たとえば、87番歌や3044番歌に「うち靡く我が黒髪に」とあるように。「小竹(しの)の末(うれ)に」はむろん「篠竹の梢に」ということ。「春がやってきた。篠竹の梢にとまって尾羽を震わせてウグイスが鳴いている」という歌である。

1831  朝霧にしののに濡れて呼子鳥三船の山ゆ鳴き渡る見ゆ
      (朝霧尓 之努々尓所沾而 喚子鳥 三船山従 喧渡所見)
 「しののに濡れて」は「ぐしょぬれになって」ということ。三船の山は奈良県吉野の宮滝のある山。「朝霧にぐしょぬれになって呼子鳥が三船の山から鳴き渡るのが見える」という歌である。

1832  うち靡く春さり来ればしかすがに天雲霧らひ雪は降りつつ
      (打靡 春去来者 然為蟹 天雲霧相 雪者零管)
 本歌~1842番歌は雪を詠んだ歌。
 「うち靡く」は前々歌とややニュアンスが異なって「草木が靡くその春」という形容句に使われている。「しかすがに」は「~にかかわらず」という接続詞。「草木が靡く春がやってきたのに、空はどんよりくもり、雪も降り続いている」という歌である。

1833  梅の花降り覆ふ雪を包み持ち君に見せむと取れば消につつ
      (梅花 零覆雪乎 裹持 君令見跡 取者消管)
 読解不要の平明歌。「梅の花を覆い尽くすように雪が積もっている。その雪を両手に包みもってあの方に見せようと掬い取ると消えてしまいます」という歌である。

1834  梅の花咲き散り過ぎぬしかすがに白雪庭に降りしきりつつ
      (梅花 咲落過奴 然為蟹 白雪庭尓 零重管)
 「しかすがに」は前々歌にあったように「~にかかわらず」。本歌も平明歌。「梅の花は咲いてもう散ってしまった季節になったというのに、庭には白雪がしきりに降り続いている」という歌である。

1835  今さらに雪降らめやもかぎろひの燃ゆる春へとなりにしものを
      (今更 雪零目八方 蜻火之 燎留春部常 成西物乎)
 「今さらに」は「この時期になっても」という意味である。「この時期になっても雪が降ってくるというのだろうか。陽炎が燃え立つ春になっているというのに」という歌である。

1836  風交り雪は降りつつしかすがに霞たなびき春さりにけり
      (風交 雪者零乍 然為蟹 霞田菜引 春去尓来)
 「春さりにけり」は「春になった」という意味である。「風に吹かれて雪は降り続いているけれど、霞がたなびいていて、春がやってきている」という歌である。

1837  山の際に鴬鳴きてうち靡く春と思へど雪降りしきぬ
      (山際尓 鴬喧而 打靡 春跡雖念 雪落布沼)
 「山の際(ま)に」は「山あいでは」という意味。「山あいではウグイスが鳴いていて草木も靡く春だと思うが、雪が降り続いている」という歌である。

1838  峰の上に降り置ける雪し風の共ここに散るらし春にはあれども
      (峯上尓 零置雪師 風之共 此聞散良思 春者雖有)
 「風の共」は「風の共(むた)」と読む。「雪し」の「し」は強調の「し」。「峰の上に降り積もっている雪が風に舞い散ってここまで飛び散って来るようだ。春になっているというのに」という歌である。
 本歌には左注が付されていて、「右の一首は筑波山において作った歌」とある。

1839  君がため山田の沢に恵具摘むと雪消の水に裳の裾濡れぬ
      (為君 山田之澤 恵具採跡 雪消之水尓 裳裾所沾)
 恵具(ゑぐ)は湿地(沢)に生育するクログワイのこととされている。そうだとしたら食用ないし薬用としたのだろうか。「雪消(ゆきげ)の水」は「雪解け水」のこと。「あなたのために、山田の沢でクログワイを摘み取ろうとしていたら雪解け水に裳裾が濡れてしまいましたわ」という歌である。

1840  梅が枝に鳴きて移ろふ鴬の羽根白妙に沫雪ぞ降る
      (梅枝尓 鳴而移徙 鴬之 翼白妙尓 沫雪曽落)
 「ウグイスが鳴きながら梅の木に枝移りしている。その羽根に沫雪が降りかかって真っ白だ」という歌である。

1841  山高み降り来る雪を梅の花散りかも来ると思ひつるかも [一云 梅の花咲きかも散ると]
      (山高三 零来雪乎 梅花 <落>鴨来跡 念鶴鴨 [一云 梅花 開香裳落跡])
 「山高み」の「み」は例によって「~ので」の「み」。「山が高くて上から雪が降りかかってくる。それを散りかかる白梅の花びらと見間違えたよ」という歌である。異伝歌は「咲いた花が散ってくる」と詠われているが、むろん歌意はほぼ同じ。

1842  雪をおきて梅をな恋ひそあしひきの山片付きて家居せる君
      (除雪而 梅莫戀 足曳之 山片就而 家居為流君)
 「雪をおきて」は「雪をさしおいて」という意味。「な恋ひそ」は「な~そ」の禁止形。「あしひきの」はむろん枕詞。「山片付きて」は「半ば山にかかっている」すなわち「山際の麓に」という意味である。「雪をさしおいてそれほど梅を恋いこがれなさんな。山の麓に家を構えておられるんですから」という歌である。つまり、「雪も梅の花と同様風情がありまする」という歌である。
 左注に「右二首は問答歌である」とある。

1843  昨日こそ年は果てしか春霞春日の山に早立ちにけり
      (昨日社 年者極之賀 春霞 春日山尓 速立尓来)
 本歌~1845番歌は霞を詠んだ歌。
 春日山は奈良の春日大社が鎮座する山。「昨日こそ年は果てしか」は「つい昨日年が暮れたばかりだというのに」という意味である。「つい昨日年が暮れたばかりだというのに、春日山にはもう春霞がかかっている」という歌である。

1844  冬過ぎて春来るらし朝日さす春日の山に霞たなびく
      (寒過 暖来良思 朝烏指 滓鹿能山尓 霞軽引)
 典型的な万葉歌で、素朴にして骨太の調べである。「冬は過ぎ去って春がやってきたようだ。朝日がさしている春日山に霞がたなびいている」という歌である。本歌はあまり見かけた記憶がないが、間違いなく万葉集を代表する歌とみている。

1845  鴬の春になるらし春日山霞たなびく夜目に見れども
      (鴬之 春成良思 春日山 霞棚引 夜目見侶)
 ウグイスの鳴き声を春の象徴と見た歌。読解不要だろう。「ウグイスの鳴く春がやってきたようだ。春日山に霞がたなびいている、夜目にもはっきりと」という歌である。

1846  霜枯れの冬の柳は見る人のかづらにすべく萌えにけるかも
      (霜干 冬柳者 見人之 蘰可為 目生来鴨)
 本歌~1853番歌は柳を詠んだ歌。
 本歌も読解不要歌。「霜枯れになっていた冬の柳が今では見る人の誰もが髪飾りにしたくなるような青々とした芽を吹きだしているよ」という歌である。

1847  浅緑染め懸けたりと見るまでに春の柳は萌えにけるかも
      (淺緑 染懸有跡 見左右二 春楊者 目生来鴨)
 「染め懸けたりと」は「染めあげた布を枝に懸けたと」、「見るまでに」は「見違えるほど」という意味である。「浅緑色に染めあげた布を枝に懸けたと見違えるほど春の柳は鮮やかに芽吹いてきた」という歌である。

1848  山の際に雪は降りつつしかすがにこの川楊は萌えにけるかも
      (山際尓 雪者零管 然為我二 此河楊波 毛延尓家留可聞)
 「しかすがに」は1832番歌等で触れたように、「~にかかわらず」という接続詞。「山あいでは雪が降り続いているけれど、この川柳は青々と芽吹いてきたよ」という歌である。
           (2014年12月6日記)
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