矍鑠願うのみ

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　「矍鑠」という言葉をご存じだろうか。「かくしゃく」と読む。「光輝く」という意味ではない。「光輝く」は「赫灼」と書く。「矍鑠」の方の「かくしゃく」は「あの老人、矍鑠としてるよね」と使われる。それなら多くの方が「聞いたことがある」と仰るに相違ない。そう「矍鑠」は「元気旺盛な様」という意味なのである。
　随分前だが、本欄にも書いた記憶があるが、私は「矍鑠たる老人でいたい」というのが、理想である。オー・ヘンリーは死ぬ間際に、たしか「ニューヨークを見たい」と言ったかと思うが、名古屋に住んでいる私は「名古屋を見て死にたい」という言葉になる。
　「矍鑠たる老人でいたい」というその心は「ひとに迷惑をかけたくない」という思いである。むろん、体力的には弱っていくのだろうが、少なくとも精神的には「矍鑠たる老人のままであり続けたい」というのが私の理想である。
　　　よくばりて長寿願うは本意ならずただ矍鑠が余の願いなり　　（桐山芳夫）
　　　足曲げて手振る朝の課かくするも元気でいたいただその願い　（桐山芳夫）
　　　花を追い緑求めて杜をゆくたった一人も寂しからずや　　　　（桐山芳夫）
　どの人も年を重ねて行く。むろん、この私も。だが、年月が経ってゆくのは不思議なことである。
　たとえば私が万葉集読解を開始したのが２０１３年１月。以来、ああでもない、こうでもない、とやっている内に、もう６年半にもなる。無我夢中になってやっているわけでもないのに、気がつけばそれだけの歳月が経過したことになる。この間、私自身は大して年月が経過したという実感も自覚もない。が、確実に年月は経過しているのである。不思議といえば本当に不思議な感覚なのである。
　　　　　　昨日みし紫陽花昔と同じ色　　　　　　（桐山芳夫）
　　　　　　　　　　　　（２０１８年６月２８日）