置き忘れ

日々つれづれ－１６トップへ
　私は周囲の人々の中では「人一倍しっかりしている」と思い込んでいた。もとより周囲を睥睨するような人間ではない。それどころか気が小さく控えめで、いわば謙遜型の人間である。だが、思いは自由で、心密かに「自分は人一倍しっかりしている」と思い込んでいた。
　その私が一昨日、一ヶ月前に購入したばかりのデジタルカメラをなくしたのである。正確にいうと、置き忘れたのだ。帰宅して家中どこを探しても見当たらない。車の中ではないかと駐車場に足を運んでみたがない。一晩寝た昨日の朝、色々考えた末に「ひょっとして小牧の喫茶店に置き忘れたのではないか」と思い、調べてその店に電話したら、それらしい物を預かっていると告げられた。
　私は時として小牧市に行くが、たいてい「やまざと」という喫茶店に立ち寄る。往復２時間半ほどかかる。私はダメ元でそこに行ってみることにした。二日連続の小牧行きだ。つきあってくれた相棒がさんざん私をこき下ろした。ここに記すのもはばかられるほどきつい言葉で・・・。
　到着して店内に入ると、すっかり顔なじみになっている女将さんが、ビニールに包んだカメラを手渡してくれた。
　　　しっかり者と思いし我の情けなやカメラ取る手の恥ずかしうれし　　（桐山芳夫）
　　　どことなし女将の顔のほころびし忘れしカメラの顔立てるごと　　　（桐山芳夫）
　とにかく、人生何があるか分からない。小牧くんだりまで行って、自分の座席に置き忘れてくるなんて。相棒の言葉じゃないけど、「置き忘れたことなど、帰宅途中で気が付きそうじゃないの」である。どこから「人一倍しっかりしている」なんて思いが出てくるというのだろう。これでは「人一倍ドジ」と言い直さなければならない。
　　　　　　　　　　　　（２０１８年８月９日）